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2020年6月25日
山陽堂書店メールマガジン【2020年6月25日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年6月25日配信】

みなさま

こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。

みなさんは映画「ランボー」をご覧になったことはありますでしょうか。
誰もが知る映画なので既に観ている方も多いとは思うのですが、
中にはあのシルベスタスタローンの姿を目に浮かべただけで観た気になっていた僕のような人もいるのではないでしょうか。
僕にとっては今年が、正確にはこの月曜日がランボーデビューの日となりました。
破天荒なランボーが暴れまわってなんちゃら、という話だと勝手に思っていたのですが、
ベトナム帰還兵の彼が決して拭うことのできない悲しみと悪夢を抱えていたとは。
口数の多くないランボーと、かつて上司だった大佐とのラストのやり取りが印象的で、
僕にとっては心に残る映画のひとつになりました。

と、こちらは本屋がお届けするメールマガジン、個人的な「ランボーの日」はさておき。
先週6月20日は「世界難民の日」だということで、新聞やラジオでは先週今週とそのことが多く語られていました。
日本では本来の意味とは異なる形で「〇〇難民」という使われ方もするので、言葉自体は耳馴染みのあるものになっています。
とはいえ「国を追われてしまった人々」については、やはり遠い世界の話だと思ってしまっているのが正直なところ。
彼ら彼女らは、僕のいるここから先のどこか延長線上にいる存在なのだろうか。
あるいは彼ら彼女らのその視線の先に、僕はいるのだろうか。

「アフリカの難民キャンプで暮らす ブジュブラムでのフィールドワーク401日」小俣直彦(こぶな書店)
2020.6.25.1.JPG
ロンドン大学の博士課程で学んでいた著者は研究(並びに学位取得)のため、
ガーナにあるリベリア難民のためのキャンプで暮らしながら、難民の経済活動の現地調査を始めます。
調査者として重要な決まりごとの一つは「調査対象の人物や集団と適切な距離を保つこと」であると、
ロンドン大学での講義で著者は教授陣から教えられます。
それは個人的な感情や主観が調査の客観性を損なってしまう為です
しかし、マラリアに罹った我が子の薬代を捻出できないシングルマザーにお金を渡すなど、
自らに強いていた金銭の授受はしないという決まりを著者は幾度か破ってしまいます。
目の前にいる人を「調査対象者」として捉えるだけでは、あまりに難しいのです。
本書には難民キャンプ住民たちの「隣人」として生活した著者が目の当たりにしたできごとや私的なやり取り
著者の言葉でいうところの「博士論文には収めることのできなかった」日常が記されています。
キャンプ内が厳しい環境であることは間違いなく、登場する人々の多くは自力ではどうすることもできない状況に置かれています。
しかし、なかには制約の多い難民キャンプにおいてもビジネスを成功させている人、
驚くべき手段で北欧の男性と結婚までこぎつけた女性もいて、同じ難民キャンプの住人でも状況はそれぞれに異なることがわかります。
本書が伝えてくれるのは、国際機関の調査やメディア報道から見聞きするのとは異なる、難民たちのもうひとつの姿です。

私は、普段、一般の人々の耳目に触れることのない「等身大の難民の姿」を描くことで、
多くの人々が少しでも難民を「知る」機会になれば、と思って本書を書いた。(本文より)

本を書くことはまた、著者が難民キャンプのある女性と交わした約束でもありました。
その約束が果たされ、この本が遠く青山まで届いたこと。
いつか彼女にそのことが伝わってくれたら。そう思っています。

この本を出版されているこぶな書店さんはフリーの編集者として30年にわたり本の出版に携わってきた小鮒由起子さんが、
上記『アフリカの難民キャンプで暮らす』の刊行とともに立ち上げたひとり出版社です。
※2020年6月20日、韓国の出版社よりこちらの書籍の韓国語版も出版されました。

合わせて紹介したいのがこちら。
「さようなら、オレンジ」岩城けい(ちくま文庫)580円+税
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アフリカのどこかの国で難民だった主人公の女性が、
移住先の第三国 オーストラリアで自分自身を獲得していく姿を描いた小説。
第2回 山陽堂ブック倶楽部でも取り上げました。
2013年 第29回  太宰治賞受賞

映画「ホテルルワンダ」「ルワンダの涙」
ともにフツ族過激派によるツチ族とフツ族穏健派への虐殺について扱った作品です。
希望的なシーンで締めくくられますが、立て続けに観たのでさすがに重いものが残りました。

〈今週のおすすめ本〉

「使ってはいけない言葉」忌野清志郎(百万年書房)1,300円+税
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『もちろん本を読んでいるヤツが偉いとも思わないし、賢いとも限らない。
でも、表現するネタは、自分の中にいっぱいあったほうがいいに決まってる。
少なくとも俺は、あの時代に本を読んでいてよかった、と思っている。』(本文より)
   
高校時代、クラスに忌野清志郎ファンがいた。
校則通りにセーラー服を着ていた彼女であるが(私の時代はスカート丈はわざと長くしていた)
忌野清志郎のコンサートのときはちょっと変わったメイクをし派手な洋服(衣装⁉︎)を身にまとい別人のようだった。
彼の素晴らしさを静かに熱く語り、聴いてみてとレコードを渡された。
あのとき私にもう少し感受性というものがあったならば、
きっと彼女と同じようにメイクをし派手な衣装を着てコンサートに行っていたかもしれない。 

『「努力」と言うと好きなことを犠牲にしてやるようなイメージがあるけど、
だって好きなことやってるわけだから努力じゃなくて遊びだよ。』(本文より)
(山陽堂書店 林美和子)

〈近刊案内〉

「一人称単数」村上春樹(文藝春秋)1,500円+税
7月18日(土)村上春樹さんの6年ぶりとなる短篇小説集が刊行されます。
山陽堂書店でご予約受付中です。

郵送販売についてのご案内はこちらよりご確認ください。

今日の追伸は、「ブルンジでの後悔」です。
今週も最後までメールマガジンお読みくださりありがとうございました。

それではまた来週のメールマガジンで。


山陽堂書店
萬納 嶺


追伸

ちょうどその期間に書いた日記が見当たらないため、少しおぼろげな記憶を辿りながら...

タンザニアを出国した僕は隣国ブルンジに入国した。
ブルンジという国のことはアフリカを訪れるまで聞いたこともなかった。
地図でもなかなか目に留まらないようなとても小さな国で、
それまでにまわってきた国の中でも一、二を争う物価の安さだった。
タンザニアで痛い目に遭ったあとということもあって警戒心を強めていたものの、
全体的に牧歌的な空気が漂っていたことを思い出す。

小さなその国の、あるまちを歩いていたときのこと。
日本でいえば高校生くらいの年頃と思われる男の子に声をかけられた。
話しかけられて食事や物をせがまれることはアフリカではよくあった)
感じの良かった彼と歩きながら話をしているうちに、彼がいつも仲間たちとたむろしているのだろう、
玉突き台のある建物に案内されていた。
(いまここに書きながら、タンザニアでの経験からまったく学んでいなかったのではないかと思う)
「こいつは俺らのなかで一番のバスケットプレイヤーで、こっちの彼はサッカーがうまいんだ」
連れてきてくれた彼が僕に仲間たちを紹介してくれる。
「なんでブルンジに来たの?」から始まる会話がしばらく続いたあとで、「ここは本当に貧乏な国なんだ」という話が始まった。
具体的に何をということは覚えていないのだけれど、「支援をしてほしいんだ」ということを彼らは言った。
彼らの間では、かつてブルンジを訪れた外国人が帰国後に電子機器を送ってくれたという話が流布されているようだった。
「悪いけれど、いつ帰国するかもわからないし、帰国後に経済的な余裕があるかもわからないんだ」
今の僕にそれは約束できないことを伝えた。
それを聞いた彼らの反応や表情は覚えていない。
しかし、その後でた質問に対して返した自分の言葉だけは、それに伴う苦い思いとともにはっきりと覚えている。
「僕たちがお金持ちになるにはどうすればいいかな?」
彼らのうちの誰かに訊かれ、しばらく考えてから僕は答えた。
もっともっと勉強するしかない」
人に言えるほど勉学に勤しんだわけでもなく、日本に生まれただけの自分が何を言うか。
ましてや、この状況から抜け出したいという彼らの強い思いと、
彼ら自身の努力だけではどうにもならないという現実を知りながら、それはあまりに冷たい言葉だったのではないか。
僕はいまもまだ自分の返した言葉について大きく後悔し、
そして未だに、あのとき返すべき言葉があったのかさえわからないでいる。
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