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2013年3月 8日
『人が行き交う場所。』 -the catcher in the LIVERARY今村直樹となかまたちのブログから-

人が行き交う場所。

どうして、
ここで話すことがこんなに心地いいのだろう?
トークショーも終盤にさしかかった頃、
ふとある光景が頭をよぎった。

ぼくが、大学2年のときだから、1974年だと思う。
青山のブルックスブラザースのビルより少しばかり
青山3丁目寄りに、VAN99ホールなるものがあった。
あの石津謙介率いるVANが、
本社の一階を劇場にして、若者たちが
演劇や映画などを発表する場としたものだった。
入場料99円、名前はそこから来ている。
ぼくは、他の学生たちに混じって、
自分の8ミリ映画を上映させてもらった。
たいして観客は入っていなかったけれど、
ヴァンジャケットの社員らしき人たちが、
熱心に観てくれて「いいねぇ」「がんばれよ」
などと、まるで部活の先輩のように
声をかけてくれたことを覚えている。

もちろん、当時から山陽堂書店はあった。
表参道の駅で降りて階段を登ると、
谷内六郎の壁画がいやでも目に入ってくる。
薄暗い店内には、いつ行っても
雑誌や本がうずたかく積まれていて、
インクや紙の濃厚な匂いが充満していた。
1970年代頃の書店には、
純文学も哲学書もファッションや芸能雑誌や
卑猥な本も雑多にあって、時代の空気が
澱のように溜まっていたものだ。
ましてあの狭さだ。
山陽堂書店にも、当時の書店らしい
高密度で濃厚な雰囲気があったけれど、
たとえば外国のファッション雑誌や、
デザイン関係の本があるという点で、
いかにも青山らしい感じがした。
流行通信や広告批評なんかをよく買った記憶がある。
橋本治や吉本隆明の本も、買ったっけ。

先週、18日土曜日、
ぼくはその山陽堂書店の2階にいた。
自分でも不思議なほど、よくしゃべった。
トークショーのお相手だった
並河進さんのスマートな進行も、
ぼくの気持ちを楽にさせてくれたのだと思う。
参加者は、20数名だっただろうか?
ひとりひとりの表情が、くっきりと見えていたのは、
会場の狭さのせいばかりではない。
なんだか、妙に気持ちが通いあうように感じた。
そして、ふと浮かんだのは、
30年、いや、40年近くも前のVAN99ホールだった。

青山という土地には、特別な意味がある。
時代の流行を生み出す人が、常に行き交う場所。
そう、まるで交差点だ。

トークショーに来ていたのは、圧倒的に若い世代だった。
大学生や院生、仕事を始めて間もない若者。
もうすぐインドの学校で働くという、
澄んだ目をした女性もいた。

かつて石津謙介がそうしたように、
いままた山陽堂のみなさんが、
あの街で人が集まる場所を作る。
大人が、若者にも、何かを得るチャンスを与える。
そこから、きっと、何かが生まれる。
ぼくのトークショーに来てくれた若者が、
この先、30年か40年経った頃、
ふと思い出すことだってあるだろう。

いまの山陽堂は、
かつてと違って、とても明るい。
2011年6月に改装された際、
トークショーの会場にもなったギャラリーができた。
東日本大震災をはさんで「生まれ変わった」
わけだけれど、それもどこか象徴的な気がする。
書店だって、必死に新しい姿を模索している。
(必死かどうかはわからないけれど、
容易い状況にはないことは確かだろう。)
この時代に見合った、
人が行き交う場所をつくり出すために。

《the catcher in the LIVERARY-今村直樹となかまたちのブログ》より
ttp://blog.livedoor.jp/liverary/archives/cat_607205.html

1月18日2階のギャラリーで
幸福な広告』出版記念トーク
「広告って何だっけ?何だっけ!?」
と題して著者の今村直樹さんとコピーライターの並河進さんが
対談してくれた。

1974年、今村さんがVAN99ホールで8ミリ映画を上映してたころ
私は中学生だった。
長い休みには、店番を手伝わされていたので、
今村さんのブログを読んでいたら
その頃の店の様子やお客様がよみがえってきた。

40年近く前の山陽堂をお客様の視点で書いてくれた事、
そして、こんな風に学生時代の頃から『山陽堂』という本屋が
今村さんの記憶に残ってくれていることが
なんとも有難い。

一昨年、「石津謙介生誕100年展」を山陽堂で開催したが、
今村さんがVAN99ホールに通っていた頃、
石津謙介さんは、ちょうど今の今村さんの年頃だったのである。

時代はまわる。


最近の記事
・いつか山陽堂でお話をしていただきたいと願っていた俳優矢田稔さんとジャーナリスト渡辺みどりさん。
・「PILOT新聞広告展『万年筆からはじまる物語』」のこと。
・去年の夏の水丸さん
・10年前の5月25日。
・肖像画を描いてくれた吉村洋介さんのこと。
・なぜ、松尾スズキさんの「『気づかいルーシ』ー原画展」を開催することになったのか。
・「〈どこかの森〉のアリス展」 のこと。
・『草子ブックガイド展』が実現されるまで。
・68年前の山の手大空襲 5/25青山善光寺本堂13時より法要があります。
・スイッチ・パブリッシングの新井敏記さんの中にいた山陽堂の頑固親父。
・祝・読売文学賞受賞!松家仁之著『火山のふもとで』
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・44年前の今日。
・夏葉社さんのこと
・川崎さんの家が跡形もなくなってしまった。
・大きな絵本と写真で知る「子どもたちの命を守る手洗い〜アフリカ・ウガンダでの取り組み〜」
・歯医者さんから見える景色
・城山三郎著『落日燃ゆ』の広田弘毅さんのこと。
・『私たちはあらゆる必然の中で生きていて、偶然なんてないんじゃないかと感じました。』
・桂おばあちゃん、ありがとうございました。
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