2年前の11月、山陽堂書店で牧野千穂さんの初めての個展「森は揺らす」が開催された。
その中の一枚の絵に目がとまった。タイトルは「時間旅行」。
開かれた本のページから時を刻む歯車が飛び出していて、
そのページに向かって一匹の白いサルがかろやかに舞い降りていく作品だった。
 
母(山陽堂書店・前店主)が亡くなって2週間あまり、
私の中で、絵の中の白いサルと、さる年だった母の姿が重なった。
母がこの世での役割を終え、
「語る人」から「語られる人」として本の中に飛び込んでいくように見えた。
 
好きな洋裁、そして和裁も学び、腕一本で生きていく技術を習得していた母だったが、
山陽堂書店130年の歴史の半分近く62年という月日を書店と共に過ごしてきた。
 
10代後半で上京し洋裁学校の教師になるなど、
自分の好きなようにやらせてもらえた10年間は宝物だとよく言っていた。
 
現在の上皇ご夫妻のご成婚1959年4月10日の10日後に嫁いできた当時は、
当店は今の3倍の大きさで、2・3階は住居として使用していた。
祖父母や私たち家族、叔母たち、勤労学生だった店員さんたちとの大所帯での生活。
青山通り拡幅の時には祖父が倒れてしまい、
まだ幼い私や乳飲み子だった妹を抱えてどんなに大変だったろうかと想像する。
 
40代後半で母は大病を患い、7年後のバブル時に夫に先立たれた。
そんな中でも母の傍らには、いつも針と糸があり、ミシンを踏む音が聞こえていた。
晩年は末の孫の三味線の稽古に付き添い、80の手習い、いつの間に自分も習いはじめてしまった。
孫と二人で国立小劇場の舞台に立てたのはなによりのことだった。
母の棺には、針と糸と指ぬき、そして三味線のばちをおさめた。
 
当店での牧野千穂さん2回目の個展「『おやすみまくら』絵本原画展」では
こちらの作品『時間旅行』を一階書店のレジ横に展示いたします。
2階ギャラリーの展示と合わせてぜひお楽しみください。
みなさまのお越しをお待ちしております。 山陽堂書店 遠山秀子

 

 

原画展のおしらせ————————————————

「おやすみまくら」原画展
2024年2月6日-2024年2月24日 
open:11:00~19:00(土曜~17:00)
close:日・祝日(2/11・12・18・23))

GALLERY SANYODO
〒107-0061 東京都港区北青山3-5-22 山陽堂書店2F
☎︎03-3401-1309

https://sanyodo-shoten.co.jp/info/

特集記事おしらせ——————————————–

最新号「illustration」no.241(玄光社)
絵本作家の特集掲載
いせひでこ、みやこしあきこ、しおたにまみこ、牧野千穂

http://www.genkosha.co.jp/il/

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