『たびたびの旅』復刊にあたって

東日本大震災、そしてコロナ禍……近年、未曾有の出来事を経てふと気がついてみると、

われわれはなんと遠いところまできてしまったのでしょう。

緊張に継ぐ緊張で、心もカラダもコチコチに凝り固まってしまったかのようです。

そんな折に安西水丸さんの『たびたびの旅』を手にしてみました。

1998年にフレーベル館から刊行されたこの本には、

3・11もコロナも知らない時代のわれわれを思い出させてくれる何物かがありました。

これをもう一度、読者の皆さまにお届けしたい。そう思いました。

気ままにふらり、旅に出る。横丁をちょっと曲がって知らない店に入ってみる。

そんなごく当たり前だったことが、とても貴重に思えてくるのです。

文庫判だけど、堅牢なハードカバー。

この本をポケットに入れて、ちょっとそこまで。

立ち寄った喫茶店かどこかでこの本を開けば、

もう水丸さんの視線になって旅をしている自分に気づくはずです。

田畑書店 社主 大槻慎二

◇安西水丸著「たびたびの旅」田畑書店 1,800円+税