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2021年1月13日
山陽堂書店メールマガジン【2021年1月14日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2021年1月14日配信】


みなさま


こんにちは。
やはり寒いのは、なかなかつらいですね。
目が覚めてもベッドからしばらく出られず、「このまま起床を自粛して、」なんて考えが頭をよぎってしまいます。
(そんなことまでは要請されていませんが)
ただ、苦手な冬のなかでも「緊張感のある朝の空気」は好きで、
玄関をでて外の空気に触れると、すっと気が締まります。
漕ぎ出しは寒さに身を震わせるのですが、冬のなかでもうひとつ好んでいる「澄んだ空」に引っ張られながら、
今日も自転車で青山まで通っています。

さて、今日紹介する本は火曜日に読み、きのう水曜日ずっと主人公のことを考えてしまったこちら。
「ジニのパズル」崔実(チェシル)・講談社文庫
2021.1.14.1.JPG
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000320275
抱いた疑問から見つけ出した「間違い」を正そうと、
矛盾に満ちた世界に対して声をあげ、革命を起こそうとする少女 ジニの物語です。

アメリカ・オレゴン州の高校に留学しているジニは学校に残るか退学するかを校長に問われ、3日の猶予を与えられて帰されます。
ホームステイ先のステファニー(絵本作家)は「ここ(オレゴン)に来る前に何かあったのかしら」と彼女に尋ね、ジニは「私がしたことは、本当に間違っていたんだ」と返します。

自分の傷を言い訳に、よりによって最も大切な人たちを、傷付け、騙し、欺き、追いやり、
日の当たらぬ底へ-自ら這いつくばって抜け出すしかない奥底まで突き落とした人間。
それが私だ。
これは、そんな私の物語なのだ。(本文より)

話は5年前に遡ります。
在日朝鮮人3世のパク・ジニは日本の私立小学校を卒業後、十条にある東京で一番大きな朝鮮学校に通い始めます。
ジニは朝鮮学校に通う日々のなかで抱いた疑問に考えを巡らせ、教室に飾られている肖像画に目を留めます。
そんな折、テポドンの発射が報じられ、ジニは日本人から思わぬ仕打ちを受けてしまい...
先述の通り、ジニはその後試みた革命で「最も大切な人たちを、傷付け」ることになってしまい、彼女自身も「落ちてくる空」に潰されてしまいます。
「見ぬふりをして生きること」ができれば、見つけた「間違い」を見過ごしていれば、潰れぬままでいられたかもしれません。
でもそれでは、ジニにとって生きていないことと同じだったのだと思います。
革命を期したジニの「宣言」や、それを果たせなかったあと「天国のハラボジへ」宛てた言葉が強く心に残ります。

物語の最終盤、ステファニーとのやり取りのなかで「落ちてくる空」に対しどうするかとジニは問われます。
"あのとき"からジニが過ごしてきた5年間を思うと読んでいて苦しくなるところがありましたが、ジニの口にしたひと言と、続く最後の1ページに救いを感じました。

この物語はご自身も在日3世である著者 崔実さんの朝鮮学校やアメリカ留学での経験がもとになっているそうです。
著者は物語のなかでジニにこう語らせています。

(前略)この物語から何かを学べるかもしれないなんて思ったら、とんだ大間違いだ。
初めに言っておく、ここから学べるものなんか、何一つありはしない。

学ぶよりも深く強く、ジニという存在と生き様が自分のなかに刻まれたと、著者に返したいと思います。

〈郵送販売について〉
ご注文方法等詳しくはこちらよりご確認ください。
https://sanyodo-shoten.co.jp/news/2020/05/post-188.html

今日の追伸は「シアトルの女の子」です。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた来週のメールマガジンで。

追伸

3年か4年前、まだ月に5日程度しか喫茶営業をしていなかった頃のこと。
やっているかやっていないか、やっている本人も半分わかっていないような営業形態だったため、いまのように続けて通ってくださるご常連さんも少なく、暇をしている時間が長かった。
ただ、その頃は今よりも「迷いこんでしまった」ように3階に上がってこられる方が多かったりもして。
ある冬の日、昼過ぎから喫茶営業をしていたその日もそうだった。
ひとりで1時間ほどを過ごしたあと、女の子がひとり螺旋階段を上がってきた。
初めていらっしゃる方は声をかけると「ハッ」とした表情を浮かべ、そのまま踵を返す方も多い。
緊張させてしまわないように「こんにちは」と挨拶すると、彼女は「コンニチハ」と返し、階段を上りきった。
旅行者かなと思って尋ねると、シアトルに住んでいる韓国系アメリカ人とのこと。
拙い英語で、ここは喫茶店で、ここは家族でやっている本屋で、たぶんいま1階のレジに居たのは僕と同じ顔をした母で、などと、ほとんどどうでもいい話をこちらがしたあと、
彼女からお昼ごはんにおすすめの場所はないかと尋ねられた。
今日までの滞在で食べたものを聞き、「それじゃあ、とんかつはどうかな?」と神宮前4丁目にあるお店を薦めた。
漢字とローマ字でお店の名前を書いてから窓側のカウンターに行き、簡単な地図を描いて青山通りを見下ろしながら説明した。
(ちなみに、ここまでのやり取りをしていても、まだ他にお客さまはいらっしゃらなかった)
明日の朝から京都などをまわり、日曜日にまた東京に戻り、翌日か翌々日に帰国するのという彼女に、「それはいいね、楽しんで」という一番つまらない言葉で返してしまった自分を恥じる。
「紙とペンを貸してください」と言った彼女は、名前とメールアドレスが書かれた紙を差し出した。
僕は代わりに名刺を渡し、「いまなら並ばずに食べられると思うよ」と送り出した。
彼女が3階から去ったあと、渡された紙を眺めていて、ふと思い、早足で螺旋階段を降りていくと、2階の登り口から3階の螺旋階段に向かおうとするところに出くわした。
僕は一度渡した名刺の裏にひとつ書き足し、彼女も紙にひとつ書き足した。

案内したお店やそれまでのやり取り、彼女が小柄でかわいらしかったことなどは覚えているのに、彼女の顔とあのとき何を書き足したのか、それだけはどうしてだか今も思い出せない。
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