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2020年12月27日
山陽堂書店メールマガジン【2020年12月28日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年12月28日配信】

みなさま


こんばんは。
本日は年内最終営業日でした。
2020年は、これまでであれば進めれらなかった(進めようとも思っていなかった)方向に歩を進められたような気がしています。
できなかったことも変えなければならなかったこともたくさんあった年ですが、
失ってしまったものよりも得られたものの方が多かったと個人的には思っています。
自分と対話する時間が増えて、自分のやりたいことがより明確になったからかもしれません。
自分が書き話す言葉、淹れる珈琲、並べる本、ギャラリーでの展示。
明確になったことで狭まったのではなく、大きく広がったと感じています。

書くことの楽しさを得られたことは、思ってもみなかった嬉しいできごとでした。
それまで半月に1回程度だったものから週に1回のペースで配信するようになったメールマガジンは、
自身の"おばさん化"への恐れがきっかけのひとつではありましたが(2020年4月16日配信より)、
この閉塞感でいっぱいのなかに小さくともふーっと何かを吹きたいな」なんてことを思って配信頻度を増やしました。
楽しかったことであれば楽しかったままに、悩んだり難しかったことであれば、そのなかにも必ずあるおかしみについて書こうと意識しています。
(勝手ながら)ご連絡先を知っていた方々や、配信希望のご連絡をくださった方々に送らせていただいています。
読んだ本の感想と展示や喫茶営業のお知らせ、そして追伸を「毎週書く」と自分で勝手に決めたのですが、
水曜日の夜に一行も書けていないことが何度もあり、「なんで毎週って決めちゃったんだ」と4月の自分を恨んだりもしています。
ちなみに、「追伸はなるべく紹介した本とのつながりを持たせる」という決めごとにも苦労させられました。
全然つながっていないことも往々にしてありましたけれど。
毎週追われるように書きながら、それでもやめなかったのは、これまた僕の勝手なのですが、手紙だと思って書いているからでもあります。
送る相手のわからない不特定多数へのメールではなく、書いて届けているのは僕の知っている"みなさま"(面識のない方もいらっしゃいますが)です。
それから、ご感想のメールにとても励まされましたということもあります。
お会いして面と向かって伝えていただくと逆にたいへん恥ずかしかったりもするのですが!)
毎回「あぁ、今日も拙ねぇなぁ...」と思いながら「もう!ええい!」と送信ボタンを押していて、
恥ずかしいので配信したものはどんどん忘れようと努めているくらいなのですが、ご感想をいただくと嬉しくて「書いて良かったかもなぁ」と思えたりしました。
「自分のぬか漬けおすすめはトマトです!」
「豆を売るおばさんとのやり取り、まんのうの喋ってる様子想像ついてウケたわ」
「ブルンジの子たちとの話、私も考えちゃいました」
みんなでプレゼント交換した時にカエルの小銭入れを受け取らなかったのはたぶん僕な気がします。だとしたらあの時はごめんなさい。」
「『自分がおばさんになってしまうんじゃないか』に笑っちゃいました」
「手のひらの中の砂と向き合う姿、絵葉書のように思い浮かべています」
「ごり男さんは実在するのでしょうか?」
時には紹介した本の作家さんご本人からご連絡をいただけることもあって、それもありがたく嬉しかったです。
また、メールマガジンには噺家さんやコラムニスト、装丁家、出版社の方々などにも登場していただきました。
ご執筆いただいたみなさま、どうもありがとうございました。

友人らからは「長過ぎる」「追伸のために書いてるでしょ?」「ほとんど私信だよね」などと言われていたりもするメールマガジンですが、
来年もどうぞよろしくお願い致します。

◇第15回山陽堂ブック倶楽部(オンライン)
課題本:「日本文学全集 08 」池澤夏樹=個人編集・河出書房新社
※対象となるのは「宇治拾遺物語」町田康訳(P.203〜386)のみです。
日程:2021年1月28日(木)19時より20時30分頃まで
参加人数:8人(※残り2人)
参加費:1,000円
申し込方法:sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)宛てに「1月山陽堂ブック倶楽部参加希望」と明記の上ご連絡ください。
※12月29日〜1月4日の間はお休みのため、お申込みへの返信を致しかねます。ご了承ください。

◇第16回山陽堂ブック倶楽部(オンライン)
課題本:「永い言い訳」西川美和・文春文庫
日程:2月未予定

〈山陽堂書店 年末年始営業日〉
2021年
1月5日(火)〜1月9日(土)11〜17時
1月12日(火)より通常営業

〈山陽堂珈琲 年末年始営業日〉
※こちらは3階喫茶の営業日時です。
2021年
1月8日(金)13〜17時
1月9日(土)11〜17時

SNSでも営業日をお知らせしています。
twitter:@sanyodocoffee
instagram:sanyodocoffee
ご入店は閉店の30分前までにお願い致します。
状況により営業日時が変更となることもございますが予めご了承ください。
※変更の場合は当店HPにてお知らせ致します。
山陽堂書店HP:http://sanyodo-shoten.co.jp/

来年2021年3月5日に山陽堂書店は創業130周年を迎えます
初代 萬納孫次郎が岡山から上京して明治24年(1891年)に青山の地で始めた本屋が、
小さくなっても続いていることを孫次郎はじめ山陽堂書店の歴史に関わってきたみんなは喜んでくれるだろうなと思っています。
100年くらいしたら、今度は自分がそう思われていることを願っています。

数ヶ月を経て再会できた友人や、お店に来てくださった方々。
顔は合わせられないけれど手紙やメールで言葉を届けてくださった方々、行動で伝えてくださった方々。
自分がどれだけ人から力をもらっているのか、内から込み上げ、みなぎってくるものをその度に感じながら感謝する一年でした。
どうもありがとうございました。
来年もまたどうぞよろしくお願い致します。

今日の追伸は「七五三(後編)」です。(やっと完結です。)
前編はこちら(http://sanyodo-shoten.co.jp/blog/2020/12/2020123.html
中編はこちら(http://sanyodo-shoten.co.jp/blog/2020/12/20201210.html
またずいぶん長くなってしまったので、お読みくださる方はそのおつもりで...。
本日も最後までお読みくださりどうもありがとうございました。
みなさま、どうぞ良いお年をお迎えください。

山陽堂書店
萬納 嶺


追伸

(前回までのあらすじ)
高校からの友人Sから3歳になる娘の七五三の写真を撮ってくれと頼まれ、断りきれず引き受けることに。
毎度お馴染みのごり男くんに連絡をとり、「来るように」と指示。
七五三前日の夜、西武線の某駅に集合した僕らはSのお迎え(ベンツ)で自宅に向かい、
Yちゃん(Sのワイフ)の用意してくれた晩ごはんを囲んだ。
当初は緊張していた娘のRも、だんだんとおじさん2人に慣れてきた様子。
「このひと(僕のこと)もごりらさんもここにとまるの?」と尋ねるR。
「そうだよ、今日はここに泊まるよ。おやすみなさい」と見送り、迎えた翌朝...

2階の寝室から聞こえてくるR( Sの娘)の元気な声で目が覚める。
ソファの方に目を向けると、ずっと起きていたのではないかと思うほど、ごり男はすでに「ごり男然」としている。
「こいつは前世が地蔵だったのかもしれないな」と思いながら、おはようと挨拶。
ちょっとするとYちゃん(Sのワイフ)とRが降りてきた。
「あー意外にも起きてるー!え!?そこずっと開いてたの?寒くなかった?」
「いや、まんのさんと話してさっき開けました」とごり男。
我々おじさんたちが一晩過ごしたリビングは空気わるそうだよなと、僕らは庭に面した大きな窓を開けていた。
キッチンに行ったYちゃんがまた声をあげる。
「えー!洗いものしてくれたの?ありがとー!」
そういえばリビングの机にあった鍋も空けたビールの缶も焼酎の瓶もきれいに片付けられている。
記憶になかったので、お風呂に入っている間にSがやってくれたんだなと思い「珍しいこともあるね」と言うと、
「ねー、ほんと。朝ごはんつくるね」とYちゃん。
YちゃんがRに話している声が聞こえてくる。
「ごはんにするかパンにするか訊いてきて」
キッチンとリビングを隔てる壁から、斜めにした体の半分だけを出した3歳のRが僕らに訊く。
「ごはんにする?パンにする?」
「うんとね、Rと同じにする。Rはどっちを食べるの?」
「パン」
「じゃあ、この人(僕は昨夜から"この人"と呼ばれている)はパンにするよ、ごりらさんは?」
「自分もパンで」
「ごりらさんたちパンにするってー!」と、オーダーがキッチンとリビングに響き渡る。
Rはすぐに戻ってきて、また体を半分だけ出して訊く。
「ごりらさんはパンたべる?」
声を出さずに、黙ってこくりと頷くごり男。
Rは体を引っ込めたかと思うとまたすぐに体を半分だけ出して訊く
「ごりらさんはコーヒーのむ?」
あくまで声では返さず、黙ってこくりと頷くごり男。
「ショートケーキもあるよー」とYちゃんが言ったかと思うと、Rが体を半分だけ出して訊く。
「ごりらさんはケーキたべる?」
食べないとは決して言わず、黙って首を横にふるごり男。
「こいつはいま、人間であることを一旦やめてゴリラに徹しているのか?」と推し測るまんの。

朝ごはんできるからパパを呼んできてと頼まれたRと一緒に、Sを起こしに2階にあがる。
声をかけてもムニャムニャとなかなか起きないSに「パパ起きて!」とRはパパの体に勢いよく飛び乗る。
ようやくベッドから出てきたSを連れて戻ると、Yちゃんが「洗いものありがとう」と声をかけた。
「あぁ、それ全部ごり男がやってくれたの」
え?と僕が隣を向くと、揺るぎない証拠を突きつけられた者のように、ごり男は一拍おいてから「自分です」と言った。
ごり男の声を聞くのは久しぶりな気がした。

朝食を終えると、Rは予防接種のためにSと近くの病院に向かった。
その5分後、Sが忘れた財布を届けるためにごり男がその病院に向かった。
大きな窓から足を投げだして庭を眺めながらみんなの帰りを待つ。
背中からはYちゃんがキッチンで食器を洗ってくれている音が聴こえる。
昨晩ひとりで全部の洗いものをしてくれたという、ごり男。
"ごりらさん"がキッチンで手をコマコマさせながらお皿洗っている画っていうのはずいぶんとおもしろいなと、
ひとり想像しながら込み上げてきた笑いを少しだけ庭に蒔いた。

しばらくして帰って来たRは少しおとなしくなっていて、Sに訊くと注射するときに大泣きだったという。
「クレヨンしんちゃん」を見ながらRが少しずつ調子を取り戻したところで、Yちゃんの着物の着付けをしてくれる方がやって来た。
着替え中は和室に入ってこないようにと、YちゃんはRに話している。
Sも着替えに2階に上がってしまった。
どうするのかなとRをみていると、リビングにそのまま残り、ごり男との距離を少しずつ近づけはじめた。
「ごりらさんコーヒーのむ?」
僕が手土産で持ってきたアイス珈琲の瓶を持って来ては蓋を開けようとし、それをごり男が制する。
ということを何度か繰り返しているふたり。
いまコーヒーは大丈夫だということがようやく伝わると、ソファに座るごり男の隣に並び、右手をごり男の背中に添えて静かにテレビを見始めた。
かと思うと、背後に回り、クッションをごり男の背中に押し付けている。
今度はハンカチを取ってきて「ごりらさんのけがしたのはどっちのあし?」と訊いている。
困ったように笑いながら黙っているごり男に「ごりらさん、どっちを怪我したのか訊かれてるよ?」と促すと、
「えっと、そうですね、じゃあこっちです」と指を差した方にRはハンカチをあてがってくれる。
ごり男は頭を少し下げながら「ありがとうございます」と誰にも聞こえないような声でお礼を言っている。
スーツに着替えて戻ってきたSはふたりの様子を目にし、「いつそんなに仲良くなったの?」と笑っていた。

着替えを済ませた晴れ着の一家に、おじさんふたりが同乗し神社へ向かう。
神社の前ではSの両親(じーじとばーば)が待っていた。
並んで待っていたふたりだったけれど、Rが近くなるにつれてじーじが一歩、二歩と前に出てきてしまう。
「じーじ!」と言いながら右足に抱きつくR。
じーじがもっとじーじになったらRに見せようと、その姿を一枚。
境内に入り、家族3人が並んだいわゆるな「七五三の写真」や、動き回るRを追って写真に収める。
じーじはSに「ご祈祷をしてもらうなら次は30分後だよ」と話をしている。
Sがどうしようかなという表情を浮かべ、「まんのうくん、ご祈祷してもらった方がいいかな?」と訊く。
僕らをそこまで付き合わせて良いものかというSなりの気遣いから訊いてくれていることはわかるものの、
七五三の写真撮影を遠慮なくお願いできちゃうくせに、Sのその塩梅はとんちんかんである。
「なんで俺たちが決めんのよ!ご祈祷してもらいなよ!」とツッコむと、Sは笑いながら「そうする」と頷いた。

ご祈祷を待つ間、ごり男は人の願いに目を通していた。
「なんか良いのあった?」
「まぁそうですね、みんな結構真剣です」
結構真剣ですって、どんな感想なんだよ。
「というか、絵馬に住所って書くものなんですかね?」
間違えて同じ名前の人の願い叶えちゃったとかがあるからじゃない?」
「あぁ、そういうことですかね」
納得するんかいと思いながら、一応尋ねてみる。
「このあとSたちはみんなね、かに道楽行くらしいんだけど、もし俺たちも誘われたら」
「それは行かないですね」
ごり男の返しは早かった。
「良かったぁ、行きますって言われたらどうしようかと思ってたから」
「行かないですよ、それは」

ご祈祷を終えたRはもらったお守りが気に入ったようで、
その様子をいくつか収めてから「じゃあ僕らはこのへんで」とSに話し、駅まで送ってもらうことにした。
「ごりらさんもこの人もまた遊びに行ってもいいかな?」と車中で訊いてみると、
Rは一切の反応を見せず、これ以上ないシカトっぷりに車内は笑いに包まれた。
駅前のロータリーで降ろしてもらい、ごりらさんもこの人もRとハイタッチをして別れた。

ふたりになり、ごり男に質問する。
「昨日今日で我々のしたことをひと言でまとめると、どうなるかね?」
「そうっすねぇ、難しいですね...」
「たしかに難しいよなぁ...。じゃあ、まぁとりあえず帰ったら走るわ。走って考えるわ」
「帰ってから走るんですか?じゃあ、自分は自転車で帰ります」
別にそんなとこまで付き合ってくれなくてもいいのだけれど、それはまぁごり男の勝手である。
隣の駅で借りて自宅の最寄駅で返せるレンタサイクルを見つけたごり男は「14キロですね」と距離を発表した。
改札を通るとちょうどごり男の乗る電車が到着するアナウンスが聞こえた。
「行きます」「じゃあね。なんかわかったら連絡するわ」「はい!
一礼してからごり男は階段を駆けていった。

後日。
ごり男に電話をかける。
「あのさ、こないだの我々のことについてだけど」
「はい」
「世の中の平和をひとつくらいはふやしたってことでどうかな?」
「そうですね、まぁ...そうですね...」
まったくもってしっくりきていない様子が伝わってくる。
でもさごり男、ごりらさんの背中に右手が添えられるって、そういうことじゃないかなって僕は思うのだけれど。
2020年12月24日
山陽堂書店メールマガジン【2020年12月24日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年12月24日配信】


みなさま

こんにちは。
お店からだす年賀状はすでに用意できているのですが、
友人らへ送る個人用の年賀状デザインがまだ決まっていません。
デザインと呼べるほどのシロモノを毎年つくっているわけではないのですが、
「今年もこんな調子で生きてまいります」というメッセージを少しだけ込めています。
どうしましょう、もう年末も年末なのに。

さて、今回のメールマガジンでご紹介するのはこちら。
「日本文学全集 08 」池澤夏樹=個人編集・河出書房新社のなかに収められている宇治拾遺物語」町田康訳です。

2020.12.24.1.JPG


http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309728780/
今年87日配信のメールマガジンに登場してくださった噺家の三遊亭好二郎さんもその時に紹介してくれたこちらの書籍。
町田康さんの訳が話題になっているのは耳にしていたものの、「日本文学全集」というその字面を見ただけで萎縮してしまい(本屋の息子なのに)、
店頭で実物を目にして「これはほとんど辞書だなぁ」と目視による測定でも重量の許容を超えていました。
つまりは、どうしてもなかなかに手をのばせなかったのです。
が。
山陽堂ブック倶楽部(読書会)を一緒に運営してくれているコラムニスト 上原隆さんより、
「来年1月の読書会、町田さんの訳した宇治拾遺物語で初笑いというのはどうだろう」という提案をいただいたことから手にして読んでみると、これがもう。
笑わずして読み進められません。
(「っふぁ」という音がしたので何だ?と思ったら自分の笑い声だった、なんてことが本当におきる。)

「奇怪な鬼に瘤を除去される」という話。(いわゆる「瘤とり爺さん」?)
一世一代の踊りを終えたお爺さんは鬼たちから拍手喝采を浴び、リーダーの鬼から「また絶対に来てくれ」と言われます。
踊りの興奮冷めやらぬお爺さんが息を弾ませつつ返した言葉。
町田康さんの訳によるとこうなります。

「はい。絶対、また呼んでください。みんなが喜んでくれたのはすごく嬉しいんですけど、
自分的にはまだ納得できていない演技がいくつかあって、今回、急だったんでアレですけど、
気に入ってもらって、また、呼んでもらえるんだったら、次こそ完璧な演技をしたいんで」

笑ってしまう。
さっきまで陰に隠れて縮み上がっていたお爺さんが、衝動に駆られるままパーンっと弾けて鬼の前に出て踊りまくり、
振り切ったテンションのまま鬼たちと喋っちゃっている姿が目に浮かびます。

踊りだすまでの、お爺さんのテンションが振り切れるまでの描写も見事です。
訳を読むと「お爺さんそんなこと言ってないでしょ!」と、一見思えたりもします。
たしかに"そんなふう"には言っていないかもしれません。
ただ、お爺さんの伝えた言葉の勘所は外していないように思えますし、頭に浮かぶ画はどこかしっくりくるところがあります。
町田康さんの訳を、ただおもしろいだけではなく、すごいと感じたのはそんなところです。
ある翻訳家の方が先日当店にお立ち寄りくださったときにこの本の話になり、
「(翻訳家や作家界隈では)ここまで自由に訳していいのか!と評判なんですよ」と叔母(おば2)に話してくれたそうです。

収められている話はいわゆる"下ネタ"も多く、「陰」という漢字もやたらと出てきます。
こんなにお下劣な話が古くから語り継がれているのは何故だろうとも思いましたが、理由は単純「おもしろいから」ですね。
鎌倉時代の貴族も武士も坊さんも、僕らと同じようなことで笑っていたのだと思うと、親愛の情が湧いてきます。

2021
1月の山陽堂ブック倶楽部では、「日本文学全集 08 」に収められた町田康さん訳による「宇治拾遺物語」P.203386 のみを課題本とします。
開催日程や申込み方法は下記よりご確認ください。
とにかくもう笑ってしまいますので、あとはみなさん、いつ読んで笑うか。
時節合いましたら山陽堂ブック倶楽部で笑いをご一緒しましょう。

三遊亭好二郎さんが登場してくださった87日配信のメールマガジンはこちら。
https://sanyodo-shoten.co.jp/blog/2020/08/87.html

◇第15回山陽堂ブック倶楽部(オンライン)
課題本:「日本文学全集 08 」池澤夏樹=個人編集・河出書房新社
※対象となるのは「宇治拾遺物語」町田康訳P.203386)のみです。
日程:2021128日(木)19時より2030分頃まで
参加人数:8
参加費:1,000
申し込方法:sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)宛てに「1月山陽堂ブック倶楽部参加希望」と明記の上ご連絡ください。
1229日〜14日の間はお休みのため、お申込みへの返信を致しかねます。ご了承ください。

◇第16回山陽堂ブック倶楽部(オンライン)
課題本:「永い言い訳」西川美和・文春文庫
日程:2月未予定

〈郵送販売について〉
ご注文方法等詳しくはこちらよりご確認ください。
https://sanyodo-shoten.co.jp/news/2020/05/post-188.html

 


〈山陽堂書店 年末年始営業日〉
2020
12
28日(月)1115
12
29日〜14日 休業
2021

1
5日(火)〜19日(土)1117
1
12日(火)より通常営業

〈山陽堂珈琲 年末年始営業日〉
※こちらは3階喫茶の営業日時です。
2020

12
24日(木)1319
12
25日(金)1319
12
26日(土)1117
12
28日(月)1115時(年内最終営業日)
2021

1
8日(金)1317
1
9日(土)1117

SNS
でも営業日をお知らせしています。
twitter
@sanyodocoffee
instagram
sanyodocoffee
ご入店は閉店の30分前までにお願い致します。
状況により営業日時が変更となることもございますが予めご了承ください。
※変更の場合は当店HPにてお知らせ致します。
山陽堂書店HPhttp://sanyodo-shoten.co.jp/

今日の追伸は「楽しいことと、勝つことも負けることも。」です。
(※「七五三(後編)」は年内にどうにかお届けできるように致します。すいません!)

いまさっきジャージー牛乳とフィンランドパンの合計金額が1111円だったのですが、
今日どこかでお会計(偶然生じた合計金額)が1224円だった方がいらしたら、なんとなくご連絡ください。
「おぉ!」くらいしかお返しできないのですが。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。


山陽堂書店
萬納 嶺


追伸

12
20日の日曜日。
駒沢オリンピック公園の第一球技場で小学1年生のミニサッカー大会があり、
この日は担当しているコーチのアシスタントとして参加させてもらった。
選手たちとは夏に浜辺がある公園で会って以来。
「遊んでいるときはあんな感じだったから、サッカーのときはこんな感じかな?」
サッカーをするところを見るのは初めてという子も何人かいて、
公園での様子を思い出しながら勝手にその選手のプレーの特徴を想像したりする。

事前に確認した大会要項の一つには「勝つことではなく、楽しみがすべて」とある。
その通りだと、僕も思う。
6
歳、7歳の選手の心身に「楽しむこと」に先んじて「勝つこと」を伝えていくことには違和感を覚える。
1
年生の試合であっても勝敗があっていいとは思うし、それはスポーツ競技から学べる大切な要素だと思う。
ただそれは、楽しんだ結果として生じたものでなければならない、というのが僕の考え。
特にこの年代の選手たちにとっては。

予選リーグが始まる。
担当コーチがゴールを守るキーパーだけ指名して、みんなをフィールドに送り出す。
攻撃が好きな選手、まずは守ることを考える選手、とにかくボールがあるところに向かう選手。
ポジションを決めずとも、なんとなくチームとして成立している様子がおもしろい。
12
分という短い時間の中で、コーチはみんなが同じ時間だけプレーできるように選手交代をし、声をかける。
交代を指示された選手を送り出すときに僕も声をかける。
「たっちゃん!寒いからコート貸して!」
「いいよっ!」
フィールドの中に駆けていく背中に感謝しつつ彼が脱いでいったコートを膝にかけて暖をとり戦況を見守る。

予選リーグでは2試合目を落としてしまったものの、僕らに勝利したチームが他チームに負けてしまったこともあって、
1
位トーナメントが転がり込んできた。
それが伝わると「まだ優勝できるの!?」と選手たちは喜んだ。
「勝ちたい(優勝したい)」という気持ちが選手たちに湧いている。
良いなと思う。
彼らは試合に勝つこと、前に進んでいくこと、上に上がっていくことを楽しんでいる。
課せられた勝利ではなく、刷り込まれた勝利への欲求ではなく、
彼ら自身から生まれた(内から発せられた)「勝利する喜び」に満ち溢れている。

気合いの入った彼らは準決勝で勝利し、決勝に進出。
決勝戦の相手は事前に見る限り、少し大きな子や足の早い子もいて手強そうにみえた。
始まった決勝は僕の予想とは異なり、終始こちらが押し込む展開に。
しかし、何度かあったビッグチャンス(コーチ3人揃ってベンチから腰を浮かせる)も得点までは至らず、PK戦へ。
コーチがペナルティーキックを蹴りたい人を募ると、ほとんどの選手が「はい!はい!」と手を挙げ、
その様子をみて「すんげぇサッカー楽しんでんじゃん!」と、嬉しくて心のなかで叫んでしまった。
外してしまったらどうしようなんてことは微塵も考えてない。
「ゴール決めたい!」「シュートしたい!」「ボール蹴りたい!」「もっとサッカーしたい!」ただそれだけ。
昨年まで僕がみていたときにはこういった場面であまり積極的にでてこなかったレフティ(左利き)のあの子も手を挙げていて、それも嬉しい。

PK
戦では勝つことができなかった。
優勝に歓喜する相手を横目に、フィールドからベンチに戻ってる選手たち。
「負けちゃったー!」と明るい調子の選手もいれば、勝ちも負けも特に関係ないといった様子で淡々としている選手、
かと思えば悔しくて泣いている選手もいて、テンションがバラバラなのがまたおかしい。
勝つことも負けることも、彼らにとっては最高のできごとだった思う。
「みんな今日はサッカー楽しかっただろうなぁ」と、それが嬉しくて僕にとっても楽しい一日だった。

2020年12月17日
山陽堂書店メールマガジン【2020年12月17日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年12月17日配信】

みなさま

こんにちは。
今年は表参道のイルミネーションも欅には灯さず、
歩道脇の草木(歩道植栽帯というらしい)のみに点灯しています。
この時期に帰りが遅くなったときにはイルミネーションの間を自転車で抜けて帰ることが励みのひとつでもあったので、
少しばかり寂しく感じていたのですが、原宿駅寄りの南国酒家さんの前に「竹あかり」なるものが施されているのに気づき「おぉ、ありがてぇなぁ」と思いました。

さて、本日はこちらの本をご紹介します。
「緑の髪のパオリーノ」著 ジャンニ・ロダーリ / 訳 内田洋子・講談社文庫
2020.12.17.1.JPG
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000339350
著者のジャンニ・ロダーリさんは1920年生まれで今年が生誕100周年。
小学校の国語教師、ジャーナリストを経て作家(児童文学者)となった経歴の持ち主で、
1970年に国際アンデルセン賞を受賞していますので、今年は受賞50周年でもありますね。

この本には50あまりの短編が収められています。
一読目は、想像もしていなかったような、初めて来るどこかに迷いこんでしまったような心持ちに。
が、二度、三度と読んでみると「ん?あれれ?」といった調子で、
物語のおかしみだけでなく、そこに込められているものが垣間見えてくるような気がしてきます
著者の言葉を正確に捉えられているのかわかりませんが(正確に捉えることが良いのかもわかりませんが)、
短い話のひとつひとつにジャンニ・ロダーリさんから子どもたちへの、そして大人になった人たちへのメッセージが伝わってきます。
表題「緑の髪のパオリーノ」は原題である「パオリーノの木」として本の中に収められています。
緑色の髪で生まれてきたと思われていたパオリーノ。
その緑色は髪の毛ではなく、草でした。
悪さをして頭の草がトゲだらけの硬い草になったりもしましたが、
パオリーノが悪さをしないことを誓って歳を重ねるうちに、そこにはカシの木が生えるようになり...
パオリーノは亡くなってからも友だちだったみんなに言葉をかけられます。
この話を特に気に入って付箋をつけたのは、「自分もこういうふうでありたいなぁ」と考えているからだと思いました。
他にも「とても小さな家」「ドロボウたちのための玄関ブザー」「悪いヤツら」「クモから家主への手紙」
「しゃべるネコ」「月の思い出」「もっとも短いおはなし」「画家になります」「クリスマスツリーの陰で」などが僕のお気に入りです。

30歳を過ぎたいま読んでもおもしろかったですが、10歳の時に読んでも、20歳の時に読んでも、
そしてもっと歳を重ねてから読んでも楽しめるだろうことを思うと、「どんな相手にも贈ることのできる本」ともいえそうです。
それから。
装画を描かれた荒井良二さん、編集をされた飯田陽子さん、翻訳をされた内田洋子さんがそれぞれあとがきを書かれているのですが、
あとがきを3名が書かれた本というのは僕にとっては初めてでした。(世には他にもあるのかもしれませんが)
ロダーリさんへの御三方の敬愛を感じました。
初回限定版には特典として荒井良二さんのクリスマスカード(写真左)が付きます。
2020.12.17.2.JPG

〈郵送販売について〉
ご注文方法等詳しくはこちらよりご確認ください。
https://sanyodo-shoten.co.jp/news/2020/05/post-188.html


〈GALLERY SANYODO展示〉
現在開催中
◇「翻訳目録」刊行記念 タダジュン版画展 

期間:12月26日(土)まで
詳しくはこちらよりご確認ください。
https://sanyodo-shoten.co.jp/news/2020/11/121226.html


〈山陽堂珈琲 今週・来週の営業日〉
12月16日(水)13〜19時
12月17日(木)13〜19時
12月18日(金)13〜19時
12月19日(土)11〜17時
12月23日(水)13〜19時
12月24日(木)13〜19時
12月25日(金)13〜19時
12月26日(土)11〜17時
12月28日(月)11〜15時(年内最終営業日)

SNSでも営業日をお知らせしています。
twitter:@sanyodocoffee
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ご入店は閉店の30分前までにお願い致します。
状況により営業日時が変更となることもございますが予めご了承ください。
※変更の場合は当店HPにてお知らせ致します。
山陽堂書店HP:http://sanyodo-shoten.co.jp/

今日の追伸は「緑の髪と六本木通り」です。
「七五三(後編)」は次号以降改めてお届けします。
(どれほどの方がお待ちくださっているのかわかりませんが、申し訳ありません。)
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた来週のメールマガジンで。

山陽堂書店
萬納 嶺

追伸

いまこうして書くことも恥ずかしいのだけれど。
過去数回、諸般の事情により髪の毛を緑色にしたことがある。
(諸般の事情にしろ、数回やっているのだから自分の意志というものは確かにあった。恥ずかしい)
アルバイト先(当時は築地市場内だった)でお叱りを受けたり、髪の毛がひどく痛んだりと、緑色にして良かったことはほとんどない。
青山から築地市場まで自転車通勤だったので、緑から黄色く色づき、そして枯れて裸になる外苑の銀杏並木を早朝と昼間に横目で見るたび、
「自分の髪の毛も緑の色が抜けて金髪(黄色)になって、葉ひとつない冬の銀杏の木のようになるじゃないか...」と不安を感じたことを思い出す。
ただ、ひとつだけ良かったこととして心に残っている出来事がある。

築地市場でアルバイトを終えた帰り道。
普段は赤坂見附まで行って青山通りに出てから坂を上がるところ、
その日は手前の六本木通りで左折して帰ることにした。
曲がってからひとつ目かふたつ目だか、登り坂が始まるというあたりで信号にしたがって止まっていると、
通り沿いにある床屋さんから僕より30くらいお歳を召した女性店主さん(か従業員さんか)が出てきた。
女性は歩道をこちらに進み、言った。
「あなたの緑の髪きれいね」
周囲からの評判は概ねよくなかったので、いきなりそのように言ってもらえたことに驚いた。
「いや、すいません、恥ずかしくていつもは帽子かぶっちゃってます」と恐縮して返事をすると、
女性は「ううん、緑色似合ってるわよ、あなたに」と言った。

偶然店を出たところに居合わせたのか、
あるいはドアの外に緑色を見かけて出てきてくれたのかはわからないけれど、
いずれにせよ、店からの数歩は「緑がきれい」だと伝えるという意志の証であった。
もう緑色の髪にすることはないけれど、
いまこうして思い出しても、あのときの一言は嬉しかった。

2020年12月10日
山陽堂書店メールマガジン【2020年12月10日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年12月10日配信】

みなさま


先日友人に教えてもらった渋谷 ユーロスペースでの短編映像の上映会に行ってきました。
「広く知られていなくても、世の中にはおもしろいことをしている人がたくさんいるのだなぁ」と、
月並みな感想ですがそう思いました。
と、同時に「やっぱり良いものをたくさん見過ごしてきているんだろうなぁ」とも。
ただ、いろんなものを自分から求めにいくとすごく疲れてしまうということもこれまでの経験からわかっており、
「人に教えてもらって」だったり、「いつもと違う道を歩いていて」くらいの偶然なんかに、
いろんな出会いを委ねたいなぁなんて思ったりもしています。

さて、本日は現在当店ギャラリーで原画展を開催中の本を紹介します。
『翻訳目録』著 阿部大樹 / 絵 タダジュン(雷鳥社)
2020.12.10.1.JPG
http://www.raichosha.co.jp/book/write/wr36.html
どのような本なのかと問われると、何と説明すればよいのか。
「精神科医であり翻訳も手がける阿部さんが溜めていた"言葉"たちの本」といったところでしょうか。

言葉の意味はたえず変わっていく。
書き留められるのは、その一瞬にもっていた意味だけだ。
―――言葉はいつまで、もぞもぞ動く?
2020年に日本翻訳大賞を受賞した、精神科医が"私的なノート"に書き溜める、
国や地域、時代をまたぐ味わい深いことばたちを、ひろく紹介する、ちいさな目録。
"名無しの翻訳"、"時代とともに消えた言葉"、"意味の移り変わり"など
私たちの、"くちのききかた"からこぼれた60個の欠片を、
版画家・タダジュンの挿絵とともにしずかに眺める。
(雷鳥社HP 書籍紹介より)

本に収められたのは、労働者のブルース、中国語の標語、万葉集の詩、生活の中に"あった"言葉など。

翻訳できない言葉なんてないのだ。
これが言いたくて、私はこの本を書きました。(本文より)


言葉を解説、というより解析してくれているところもあり、
自分が日常的に使っている言葉(ことば・コトバ)の意味に考えを巡らせました。
著者 阿部さんが書いた言葉と、版画家 タダさんの絵(版画)で各ページは構成されているのですが、
レイアウト(文字の組み方)がそれぞれのページで異なっていて、
装丁をされた宮古美智代さんが楽しんでつくられたのではないかと想像してしまいます。
(もちろん、いろいろ考えを重ねた大変な仕事だったとは思うのですが)
ほぼすべてのページに絵が載っており、タダジュンさんの作品もたくさん見られる贅沢なつくりです。
僕には書かれている言葉がわからないページがいくつかあったのですが、タダさんの絵に理解を助けてもらったりもしました。
本を読んでから原画を眺める時間というのも、また良かったです。
展示は12月26日(土)まで。

ちなみに、「紙魚」ってご存知でしたか?(読めますか?)
僕は本書で初めて知りました。

〈GALLERY SANYODO展示〉
現在開催中
◇「翻訳目録」刊行記念 タダジュン版画展 

期間:2020年12月7日(月)〜12月26日(土)
時間:平日11−19時 土曜11−17時 日曜定休 ※最終日は17時まで。
開廊時間は変更の可能性もありますので、ご来場前にご確認下さい。
詳しくはこちらよりご確認ください。
https://sanyodo-shoten.co.jp/news/2020/11/121226.html

〈郵送販売について〉
ご注文方法等詳しくはこちらよりご確認ください。
https://sanyodo-shoten.co.jp/news/2020/05/post-188.html


〈山陽堂珈琲 今週・来週の営業日〉
※12月10日(木)の営業時間が変わりました。

12月10日(木)13〜18時
12月11日(金)お休み
12月12日(土)11〜17時
12月16日(水)13〜19時
12月17日(木)13〜19時
12月18日(金)13〜19時
12月19日(土)11〜17時

SNSでも営業日をお知らせしています。
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今日の追伸は「七五三(中編)」です。
「七五三(前編)」は山陽堂書店HPブログよりご覧いただけます。
山陽堂ブログ:http://sanyodo-shoten.co.jp/blog/index.html
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた来週のメールマガジンで。


山陽堂書店
萬納 嶺

追伸


数日後。
「何故、かに道楽だけしか断ることができなかったのか」と自問しながら、
家電量販店でポートレートに適したカメラについてひと通り説明を聞いていた。
店を出てから「とりあえずまぁ」と思い、奴に電話をかけた。
(「七五三(前編)」より)

二つ目の呼び出し音で奴が出る。
「はい」
「こんにちは、まんのです」
「そう、ですね、知ってます」
「11月23日にSの娘の七五三の写真を撮ることになりました」
「はい」
「それは知っていましたか?」
「それは知りませんでした」
「22日の19時に西武線の○○駅に集合です」
「はい、わかりました」
さすがである。
こちらが何を説明しないまでも、指定された時間と場所に居ればいいということを心得ている。

七五三の前日、待ち合わせの駅に着くも奴の姿が見えず、電話をかける。
「どっちの改札にいる?」
「改札じゃないですね、ここは、えーと」
左から右へぐるりと見回し、180度を迎えるあたりでぴたりと目が留まる。
100メートルはあったろうか、人の間を縫うようにのばした視線の先、コンビニの明かりを背に見覚えのあるシルエットが真っ黒に浮かんでいる。
この距離でも正確に奴を捉えるこちらの精度がすごいのか、捉えられる奴がすごいのか。
電話口では奴がまだ喋っている。
「バスのロータリーがあって」
「もう大丈夫」
数メートル手前で奴もこちらに気づきぺこりと頭を下げる。
「本番は明日ですが我々は前日入りします。いまSがきます」
「はい、わかりました」
しばらくするとSが車で迎えにきた。
Sは車を降りるなり、笑ってしまっている。
「ごり男も、来てくれたんだね」
恐縮した様子でごり男が答える。
「よくわかってないんですが、とりあえず来ました」
Sの乗ってきたベンツに乗り込み、いま一度尋ねる。
「(経済的に)余裕あるんだからさ、プロに頼めよ」
「うん、でもYちゃ」
「わかったよ」

家にあがり、SがYちゃん(Sのワイフ)の背後に隠れているR(Sの娘)に僕らを紹介する。
「ほら、まんのうくんとごり男くんだよ」
RはYちゃんの足に顔を押し付けながら、こちらを見ないようにしている。
「恥ずかしいよねー」と笑いながらキッチンへ向かうYちゃんのあとにぴたりとくっついてRは行ってしまった。
そらそうだ。
いきなり現れたおじさんふたりを受け容れられるような3歳児は、3歳児じゃない。

Yちゃんが用意してくれた夕ごはんをみんなで囲みながら、今日は伊勢丹写真室で撮影してきたという話を聞く。
(おいおい、明日もプロに頼んでくれよと思いながら話を聞く)
お化粧する時も、衣装に着替えるときも、撮影のときもRはご機嫌だったとのこと。
「R、今日楽しかったんだ?」
「R、お化粧もしたの?」
「R、あしたは僕が撮ってもいいかな?」
僕の質問に言葉は返ってこないものの、少しずつRと目が合うようになる。
ちょっとするとRはパパママにやたらと話しかけるようになり、声も少しずつ大きくなってきた。
普段使っているスプーンではなく、鍋用のおたまを使い大きな口を開けてかっ喰らいはじめたあたりに
警戒心が薄らいできたことやテンションの高まりが伺える。
「R、閻魔様みたいにごはん食べるんだね」
「・・・」(なおもおたまでごはんを食べている)
「あしたは僕が写真撮ってもいい?」
「・・・いいよ、あしたいるの?」
「あしたもいるよ。きょうはここにとめてもらうよ」
「このひと(ぼくのこと)と、あとごりらさんもとまるの?」
ごり男が「さん」付けされていることにみんなが笑い、ごり男が黙って笑っているだけなので「ごりらさんもだよ」と僕が応えた。

お風呂から出てきたRはSに髪を乾かしてもらうと、
僕らの寝床として用意されたリビングのマットレスにタオルケットをきれいに並べてくれるなど忙しく働いた。
「もう寝る時間だよ」とYちゃんに手を引かれて2階の寝室に向かうRに、みんなでおやすみと声をかけると、Rは振り向いてもう一度訊いた。
「このひとと、ごりらさんもここにねるの?」
「このひともね、ごりらさんもね、ここでねるよ」
このひとは「またあしたね」と言葉で見送り、横ではごりらさんが手を振っていた。
(「七五三」(後編)につづく...)
ひとつひとつ思い出しながら書いていたらずいぶん長くなってしまいました。すいません、後編に続きます。)

2020年12月 3日
山陽堂書店メールマガジン【2020年12月3日配信】
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山陽堂書店メールマガジン【2020年12月3日配信】

みなさま

こんにちは。
僕は寒いのが苦手で、乾燥肌でもあります。
2、3年前だったか、冬の日ある日。
友人のSが僕の手を見て声を震わせながら言ったことがあります。
「これは...おじいさんの...おじいさんの手だよ」
彼は泣きそうな声で憐れむような表情を浮かべていたのですが、
こちらが彼の目をじっと覗き込んでいると正体を明かし、
「ちょっと笑っちゃってるから」と指摘すると、Sは途端に大きく笑いました。
自分の手がちょっと荒れはじめると思い出すワンシーンです。

さて、本日は山陽堂書店オリジナルマグカップ 第3弾発売のお知らせです。

〈マグカップ第3弾〉
和田誠さんデザインによる山陽堂書店のブックカバーから生まれたオリジナルマグカップ。
第3弾は「風見鶏」「スフィンクス」「ぞう」の3種類を発売します。
風見鶏1.JPG
「風見鶏」
スフィンクス2.JPG
「スフィンクス」
ぞう3.JPG
「ぞう」

12月中旬に発売を予定している第4弾「自由の女神」「蛍の灯火、雪結晶」の2種類を加えて全8種類が揃う予定です。
第1弾の「孤島漫画」「ふくろう」は現在完売しており、こちらも12月中旬に再入荷予定。
第2弾の「キング&クイーン」は販売しております。
郵送でのご購入方法等詳しくはこちらでご確認ください。
https://sanyodo-shoten.co.jp/news/2020/09/-1.html

原宿駅の旧駅舎のてっぺんには風見鶏があり、いまも柵越しにですがチラリと見えます。
マグカップができるまではあまり意識したことがなかったのですが、ずっといたのですね。
そういえば、原宿駅の他で風見鶏を見たことがないぁなんてことも思いました。

来週12月7日(月)からタダジュンさんの展示が始まります。
「嬉しいなぁ楽しみだなぁ」と、心に何度も言葉を重ねてしまうほど楽しみです。

今日の追伸は「七五三(前編)」です。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた来週のメールマガジンで。


山陽堂書店
萬納 嶺

追伸

11月の頭、夜のランニングから戻ると携帯電話に友人Sからの着信があったことを知らせる赤い文字。
あまり良い予感がしなかったので、直感を信じ折り返さずに電話を置く。

3日後。
所用を終えてから携帯電話を確認すると、再びSからの着信履歴。
メッセージは届いておらず、電話でのみ連絡してくるというのは怪しい。
「やめておけ」という心の声に従い、折り返さずに電話を置く。

数日後。
そろそろ大丈夫だろうと、Sに電話する。
「S、元気かい?」
「うん、元気だよ。まんのうくん、全然電話くれなかったね」
「そうなんだよ、嫌な予感がしたから。でももう用事は済んだろうと思って」
「まだこれからだから大丈夫だよ」
「まだ大丈夫なの?」
「うん、間に合うよ」
「まだ間に合っちゃうの?」
「うん、あのね、まんのうくんにR(Sの娘)の七五三の写真を撮ってもらおうと思ってるの」
「思ってるの、じゃなくてさ。S、それ僕がすることじゃないと思うんだけど」
「でもYちゃん(Sのワイフ)が、結婚式のときにまんのうくんか泥棒みたいな人がカメラ持ってたって言ってるんだよね」
たしかに結婚式や旅行など、友人が集まるときにはカメラを持参し、みんなのことを撮っている。
SとYちゃんの結婚式の日もそうだった。
その日の2次会ではごり男にカメラを預けていたので、Yちゃんの記憶はいずれにしても正しい。
とはいえ、だ。
「S、あのね。僕が使っているのはデジカメだし、求められている程のものは撮れないよ。だからね」
「でもYちゃんがまんのうくんに頼もうって言ってるから」
SとYちゃんの力関係は付き合った当初から変わらず(それがうまくいっている証でもある)、Sは言われたことをただそのまま伝える。
「まんのうくんでいいんじゃないかって」
(まんのうくん「が」じゃないんだね、と心に思いながら)
「S、いい?七五三は特別な日でしょ?」
「うん」
「それをね、ハレの日のその写真をね、素人の僕に任せようっていうのはおかしいでしょ?」
「うん、でもYちゃんがね」
「それはわかったよ」
Sの言葉を遮って続ける。
「Yちゃんにね『まんのうくんの持っているカメラはデジカメで、撮る写真も素人の域を出ません』って伝えて。わかった?言えるね?』
「うーん、言えるかなぁ」
「言えるかなぁじゃなくてね、R(Sの娘)にとって一生の思い出になるわけでしょ?プロや良いカメラ持っている人に頼んだ方が絶対良いから」
「うーん、わかった」

翌日。
Sからメッセージが届く。
「11月23日でお願いします!」
Sよ、昨日のやり取りを経て何をどうしたらそうなるのだ?
なぜスケジュールの調整に話が進んでいる?
電話をかけて前日と同じことをSに説明する。
Sの背中越しに「まんのうくんで大丈夫だよ」というYちゃんの声が聞こえる。
「うちの両親もくるんだけど、七五三のあとにみんなでかに道楽行くことになってて、まんのうくんも一緒に」
「行かねーよ」

数日後。
「何故かに道楽だけしか断ることができなかったのか」と自問しながら、
家電量販店でポートレートに適したカメラについてひと通り説明を聞く。
店を出てから「とりあえずまぁ」と思って電話をかけた。
(「七五三(後編または中編)」につづく...)
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