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2020年9月10日
山陽堂書店メールマガジン【2020年9月10日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年9月10日配信】

みなさま


こんにちは。

ある日の喫茶営業日のこと。
窓側のカウンターに座っていた若い男の子のグラスに水を注ぎ足しにいくと、
「あの、ぼく役者に興味があって」と男の子が言いました。
熱心に本を読んでいる様子だったのですが、
手前のカウンターに座っていた友人と僕の会話が聞こえていたようです。
トイレから戻ってきた友人にそれを伝えると、じゃあこっちで一緒に話をしようよと、
男の子を手前のカウンターに誘いました。
3人でする会話のなかで「そういえば最近これ読んでおもしろかったよ」と僕が男の子に紹介したのがこの本でした。
「拾われた男」松尾諭(文藝春秋)
2020.9.10.1.JPG
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163911519
個性派俳優として数々の映画・ドラマに出演されている松尾諭さんの「自伝風」エッセイ。
もともと文春オンラインで連載されていたものが書籍化されました
エッセイは「小学生」時代や「大学生」時代の話が導入部として書かれ、
それが役者として不遇時代の話や失恋話に繋がっていくという書き方もまたおもしろく感じました。
うまくいくことなんてほとんどないけれど、まぁどうにかなるもんか、なんてことを読み終えて思いました。
表紙に描かれている道をよく見ると、おば2や僕が美容院さんへの本の配達でママチャリに乗りながら通る道でした。
偶然拾った航空券が縁で所属した事務所は北青山にあった(ある)と書かれているので、
青山のどこかですれ違っていることがあるかもしれません。

それからもうひとつ、読んでいて頭に浮かんだ人のことを。
書かれるエピソードの、特に前半は多くが切なかったり悲しかったりするのですが、
文章から伝わる松尾さんの人柄から「時間かかっても最後には幸せになりそうな人だな」と感じていました。
そして「この匂い、どっかでいつも感じているな(嗅いでいるな)」と考えてみたところ、
思いあたったのは我らが後輩 ごり男でした。
ごり男への僕の思いというものは多少歪んでもいるので、「幸せになりそうだな」と優しく思っているのか、
「時間かけちゃってくれよな」といたずらに思っているのか、そこはなんとも言えませんが。
(今夏遊びにいくことが叶わなかった東尾道 ごり男の実家から、先日いちじくが届きました。)

〈今週のおすすめ本〉
今週は2度目のご登場、前回『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』鈴木純著
紹介してくださった雷鳥社の林さんにおすすめの本を紹介したいただきます。

「おいしい時間」高橋みどり(アノニマスタジオ)
2020.9.10.2.JPG
https://www.anonima-studio.com/books/craft/delicious-time/
私は、高橋みどりさんの本を長いこと読み続けています。
20代の頃に「ひさしぶりの引越し」(メディアファクトリー)という本に出会い、
今でも時々本棚から引っ張り出しては読み、大切にしています。
この本を手に取ったのは、一人暮らしをはじめた時期。
おいしいご飯を気負わずに作って食べること、素朴でかっこいい器を大切に使うこと、
センスが良くてどこか気軽な片付けのセオリーを持っていること、そして生活に香りを取り入れていること。
こうした、気持ちよく筋の通った生活に、自分の「ものさし」を持つ大人ってかっこいいと、憧れの気持ちを抱きました。
「くいしんぼう」「好きな理由」「ヨーガンレールの社員食堂」「酒のさかな」「私の好きな料理の本」などのご著書のほかにも、
「クウネル」などの雑誌で高橋さんのお名前を見つけるとすかさず買って読みました。
それから何年も経って、私は雷鳥社に入社。
2019年に山陽堂書店さんで「雷鳥社の本まつり」という無謀な(?)イベントを開催。
店番をしていたら高橋みどりさんが来店されました。
とても驚いて、ただにこにこすることしかできなかったけれど、
高橋さんのまわりには軽やかな気持ちのいい風が吹いているように感じられて、
たとえ、ご著書を読んでいなかったとしても、好きになってしまっただろうと思いました。
高橋さんの最新刊「おいしい時間」(アノニマ・スタジオ)は、大判でとても大らかな本です。
ずっと読めずにいて、先日夜中に、ゆっくりと読みました。
20代の頃と今は全く違う世の中だけれど、高橋さんの筋の通った生活は変わらず続いていて、
私は背筋が伸びました。(雷鳥社 林由梨)

雷鳥社さんには2階・3階を使って「雷鳥社の本まつり」を開催していただき、
平成最後の企画として山陽堂書店も大いに楽しませてもらいました
期間中は2階に居られることが多かった林さんに、かような出来事があったとは。
時間を経てからこうして聞かせてもらうというのも、嬉しいものですね。


〈3階喫茶営業のお知らせ〉
SNSで営業日をお知らせしています。
twitter:@sanyodocoffee
instagram:sanyodocoffee
ご入店は閉店の30分前までにお願い致します。
状況により営業日時が変更となることもございますが予めご了承ください。
※変更の場合は当店HPにてお知らせ致します。
山陽堂書店HP:http://sanyodo-shoten.co.jp/

今日の追伸は、「なんか、いい感じ」です。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた来週のメールマガジンで。

山陽堂書店
萬納 嶺

窓側のカウンターで熱心に読書していたと思っていた男の子に、僕らの会話は聴こえていたらしい。
トイレから戻ってきた友人に伝えると、友人は「そうなの?じゃあこっちで一緒に話そうよ」と誘い、
男の子は恐縮しながら友人の隣に座った。
訊くと男の子はまだ20歳になったばかりの大学生。
役者に興味があるけれど、何からどう始めれば良いのかわからず、
とりあえず青山にある芸能事務所でインターンのアルバイトを申し込んできて、その帰りだという。
男の子と10ほど歳の離れた友人は話を聞きながら「僕もそうだったなぁ、まずどうすればいいのかがわからなかった」と言って、
大学時代は毎月新潟から東京のレッスンに通っていたことや、大学卒業後に上京して養成所に入ったこと、
養成所卒業の段に縁あって所属事務所が決まったことなどを話した
他のお客様が来たところで僕はふたりから外れたけれど、その後も友人は熱心に男の子の話を聞き、話をしていた。

友人がどれほど活躍しているのかを僕はよく知らない。
ただ、母やおばは友人をテレビで見かけると逐一報告してくるので、その報告の頻度からして、役者で食えてはいるのだと思う。
街で声をかけられることなんてないよと友人は言うけれど、どうだろう。

「何かあったらいつでも連絡してよ」と言って、友人は男の子に連絡先を伝えている。
こういう奴だからあのとき友だちになったんだなぁと、僕は思う。

出会ったときはお互いに卒業間近の大学生だった。
お互い詳しく話すことはしなかったけれど、どうやらどちらもこのまま就職するわけではないことはわかった。
ほとんど何も聞かないまま、ただ絶対にそうした方がいいと思ったので「きみは東京に出てきた方がいいよ」と伝えたら、
春から上京する予定なんだと言ったので、まぁそういうことなのだろうと思い(というより安心し)、
それ以上そのことについて話すことはしないまま他愛のない会話に終始し、「またいつかね」と言って空港で別れた。
「なんか、いい感じの奴」
それが彼の印象だった。

その後、彼が上京するタイミングで僕が東京を離れたこともあり、
6、7年連絡を取り合うこともなかったのだけれど、
きっかけあってまた会うようになり、いまの仲に至る。
不思議なものだなぁと思う。

活躍するようになってからも前から知っている彼だということがおもしろかったのと、
半年ぶりに会った嬉しさもあって、とても野暮だと思いつつ帰り際に言ってしまった。
「なんか、いい感じだな」
はははと笑って「またくるよー」と言って螺旋階段をおりていく友人。
「また来んのかー」とマスクの下で僕もひそりと笑ってしまった。
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