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2020年8月20日
山陽堂書店メールマガジン【2020年8月20日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年8月20日配信】

みなさま

こんにちは。
暑い日が続いていますね。
僕は嬉しい限りですが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
今週のこのメールマガジンを書いているいまは、水曜日の深夜0時。
僕の部屋の窓(正確には網戸)には蝉がとまり、大声で愛を叫んでいます。
適度に木の並ぶ小さな公園に部屋が隣接しているので夏は朝早くから夜遅くまで賑やかです。

さて、現在渋谷のBunkamuraさんでは毎夏恒例の『ドゥ マゴ パリ祭り』が開催されています。
今年は実際にお出かけできなくても楽しめるように『おうちでも!Bunkamura ドゥ マゴ パリ祭り 2020』ということで、
企画の1つとして渋谷界隈の書店が「フランスを楽しむ一冊」を紹介しています。
https://www.bunkamura.co.jp/sp/parisai2020/topics/3736.html
山陽堂書店が紹介させていただいたのがこちらの1冊。

「パリのおばあさんの物語」(千倉書房)
著 スージー・モルゲンステルヌ /  絵 セルジュ・ブロック / 訳 岸恵子

2020.8.20.1.JPG
https://www.chikura.co.jp/category/select/pid/819
おばあさんはもうずいぶんと歳を重ね、日々のひとつひとつが難しくなっています。
差し込んだ鍵がなかなか回ってくれないアパートの扉に、おばあさんは優しく接します。
「わたしの可愛い扉ちゃん、わたしを早くなかに入れてちょうだい」
本を読むこと、編み棒で編むこと、いろんなことに対する気力もわきません。
でも、おばあさんは思うのです。
「できることだけでもやっていくことだわ」
おばあさん、また若くなりたいとは思わないのだそうです。
移民としてパリにやってきた頃の戸惑い、婚約者との甘い時間、戦時中の深い悲しみ、そして取り戻した家族との幸せな生活。
うっかり忘れてしまうことも増えたおばあさんですが、いまに続くそういった日々のことをたくさん覚えています。
おばあさんは鏡をのぞいてつぶやきます。
「なんて美しいの」
心震わせるほどの喜びも、拭うことのできない悲しみも、辿ってきたその道のすべてを優しく見つめながら、
おばあさんは今日もゆっくりと歩きます。

数年前に初めて読んだその時よりも思うところがあるのは、
僕だけでなく、祖母も同じように少しだけ歳を重ねたからかもしれません。

先週読んだパリ本をもう一冊。
「パリのすてきなおじさん」文と絵 金井真紀 / 案内 広岡裕児(柏書房)
2020.8.20.2.JPG
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b314183.html
作家・イラストレーター 金井氏と、フランス在住のフリージャーナリスト 広岡氏が、
どんな本を作りましょうかと話していてひらめいたのが「パリでおじさんを集めよう」というアイデア。
登場するパリのおじさんたちが語るのは、愛や仕事や人生のこと。
約束を取り付けて会ったおじさん、レストランで隣り合わせたおじさん、
難民センター前にいたおじさん、広岡さんが仕事でときどき出入りしているビルで"いい感じに働いている"おじさん。
2週間の取材期間中、ふたりはとにかく「パリのおじさん」を集めまくります。
ここまで多種多様なおじさんが集まったのはパリだから?
他者に対し「相容れなくとも受け容れる」という姿勢をパリのおじさんたちから感じました。
僕の知る限り、東京(日本)にもナイスなおじさんたちは多くいますが、
そう思うのは僕が既に"おじさん入り"しているからかもしれません。

〈今週のおすすめ〉
今回は装丁家(ブックデザイナー)折原カズヒロさんに、ご自身が立ち上げたブックレーベル Timeless Booksの本を紹介していただきます。
折原さんとは「神宮前サッカー会」という、ひたすらサッカーの話だけをする会でもご一緒させてもらっています。
Timeless Books HP:https://www.timelessbooks.info/

カワツナツコ スケッチ画集 Sketches 100 - PARIS scene through my eyes
2020.8.20.3.jpg

パリにどんなイメージを持っていますか?
花の都、パリジェンヌ、フランス料理、芸術の都...などでしょうか。まあとにかく「オシャレ」ですよね。
なぜかパリは憧れフィルターがかかるようで特に日本女性にそれが発揮されるようです。
本書の著者のカワツナツコさんも日本女性ですが、特段、パリに憧れてはいなかったようです。
あまりフィルターが効いていない珍しいタイプです。

これはイラストレーター・カワツナツコさんが初めてのパリ旅行でのスケッチ画を集めた本です。
カワツさんはふだん、カラフルなペーパーコラージュやイラストで活躍しています。
子供や動物など可愛いモチーフが多く、子供向けの絵本も作っています。
でも、パリ旅行から帰ってきた彼女がSNSに次々にアップしたのは、それとは全く別のモノクロのスケッチ画でした。
時には大胆に、時には繊細に描かれた絵に私はすっかり魅了され、「100枚描く」という言葉に、それなら本にしようと提案したのでした。

私はブックデデザインの仕事をしていて、仕事場の半分をギャラリーにしています。
これまでも時々オリジナルの本を作り展示・販売をしていて、このスケッチ画も本にしようと思ったのです。

カワツさんは3人の友人と旅行し、パリに住む知り合いに案内してもらったり、ディナーを共にしたり郊外に足を伸ばしたり。
観光スポットにも足を運びながら、初めてにもかかわらず日常のパリの姿も垣間見ている。
そんな雰囲気がよく表れた本になっています。余分な憧れがない分、かえってオシャレに見えます。
パリがオシャレなのか、カワツさんがオシャレなのか。
たぶん両方です。

この本には100枚の絵が収められています。
サイズは約15cm四方の正方形にしました。
糸綴の背中をそのまま見えるようにした製本(=コデックス装)の表紙に厚紙を貼り付け、小ぶりながら適度な重みのある本に仕立てています。

6月に行った展示会では様々な方々に手に取っていただきましたが、限られた時間のみの販売でした。
こうして山陽堂書店で扱っていただき、オシャレに敏感な青山で手にしてもらえる機会が得られとても嬉しいです。たぶん本も喜んでいると思います。
(Timeless Books 折原カズヒロ)

〈3階喫茶営業のお知らせ〉
現在座席数は4席です。

【8月中の喫茶営業日】
・8月19日(水)13〜19時
・8月20日(木)13〜19時
・8月21日(金)13〜19時
・8月22日(土)11〜17時
・8月26日(水)13〜19時
・8月27日(木)13〜19時
・8月28日(金)13〜19時
・8月29日(土)11〜17時
ご入店は閉店の30分前までにお願い致します。
状況により営業日時が変更となることもございますが予めご了承ください。
※変更の場合は当店HPにてお知らせ致します。

〈2階ギャラリーにて開催中〉
「山陽堂書店の絵展」
会期:2020年8月19日(水)よりしばらくの間
これまでご縁のあったイラストレーターや版画家の方々に描いていただいた「山陽堂書店」の作品を展示いたします。
オリジナルのポストカードやトートバッグも数量限定で販売いたします。
〈展示作家〉
木村かほる・口丸弘子・小林七郎・堺直子・庄野ナホコ・タダジュン・
谷内六郎・谷口智則・玉川重機・平澤一平・村尾亘・山﨑杉夫(敬称略)

今回はBunkamuraさんのパリ祭りに合わせて3冊紹介致しました。
欧州のサッカークラブ王者を決めるチャンピオンズリーグ決勝にパリSGが進出し、
地元 パリは盛り上がっているのではないでしょうか。
人としてはあまり好みませんが、エース ネイマール(ブラジル代表)がとにかくキレキレです。
今週も最後までメールマガジンお読みくださりありがとうございました。
本日の追伸は、「東京のおじさん、2020年夏。」です。
それではまた来週のメールマガジンで。

山陽堂書店
萬納 嶺


追伸

先日、当店50年来の常連であるKさんが再開後の喫茶に来てくれた。
「お、久しぶりにやってんだね」「4ヶ月くらい(喫茶は)休んでたんです」と言葉を交わすと、
Kさんは手前のカウンターに座り、珈琲豆を量る僕の手元をじっと見ながら「良い色してるねぇ」と感嘆するように言った。
僕が手を止めずに「自転車通勤とランニングです」と返すと、Kさんは視線を僕の顔に移した。
目を合わせて「それで焼けちゃったんです」と続けると、
Kさん「珈琲豆のことだよ」

数日後、バスを待っていると70歳くらいの男性が同じベンチの隣に腰掛けた。
男性は持っていた水をひと口飲むとゆっくりとこちらに話しかけた。
「お兄さんは、ずいぶんと日に焼けているけど、」
自転車通勤とランニングですと頭に用意しながら、続く言葉を待つ。
「外国の方ですか?」

一応、自身で考えている「ここまでは大丈夫」という日焼けの度合いというものがある。
それは「外国人だと思われない程度」なのだけれど、おじさん(おじいさん)に生じさせてしまった疑念により、
今年の日焼けは度が過ぎたのだと知ることとなった。
ちなみに、外国人と思われることに対して自身が気を悪くするということがあるわけではなく、
相手の「あ、日本の方でしたか...」という"申し訳なさそうな様子"にこちらも"申し訳なさを感じる"という状況をなるべく避けたいのである。
(といいつつ、外国人だと思われることを利用して時々いたずらをすることもある。)

今年は3月から日焼け止めを塗り始め、日焼けし過ぎないことへの意識は女子高生並みだと自負していたのだけれど...
「すいません、(ずっと)日本人です。よく外を走るのでこんなに焼けちゃいました。」
なんとなくこちら方向に顔を向けて話していた男性は視線を正面に滑らせ、
一拍ののち噛みしめるように「健康的な日焼けは、良いよねぇ」と口にした。
その声はとても細く、そして言葉はまるで僕のほうに向いてはいなかった。



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