君という美しい命は、偶然灯された一閃の光だ
君、忘れてはいけない。
きのう、戦争があったのだ。昔むかしの物語ではない。
その大きな戦は、昭和という時代、二十世紀にあった。
君がきょう歩いているかもしれない美しい町は、
かつて亡きがらが転がり、いたるところが墓地となった焼け野原。
空から日夜恐怖が降ってくる、地獄のような土地だった。
そんなところで、それでも人は・・・君の父や母の父や母、祖父や祖母は、
生き続けた。生き続けたから、君がいる。
君という美しい命は、未曾有の戦災をかろうじてくぐり抜けた人、
その人を守った誰かの先に偶然のように灯された一閃の光だ。
我々は『戦争中の暮らしの記録』から半世紀経ったいま、もう一度訊く。
あの日々、どう暮らしたか?どう生きて、どう死んだのか?
これが最後のチャンスかもしれない。急げ急げ!
この新たな本では約百編の応募作文を掲載する。
名もなき庶民の、胸を激しくゆさぶる言葉に、触れてほしい。
それは、我らの肉親からの現在形の叫び、愛だけからなるメッセージだ。
いま、この一冊を手にしようとする君がもし若いとしたら、
平成に、あるいは二十一世紀に生まれた人かもしれない。
だが、君が誰であろうと、忘れてはいけない。
ドアの向こうに、次の戦争が目を光らせて待っているということを。
人類の短い歴史とは、戦争の歴史であるから。戦後とは、戦前のことだから。
先の本のメッセージを、繰り返す。『これが戦争なのだ』。
それを知っておきたい。君に知ってもらいたい。
できることなら、君の後に生まれる者のために、そのまた後の者のために、
この新たな一冊を、たとえどんなにぼろぼろになっても、残しておいてほしい。
『暮しの手帖』編集長 澤田康彦
暮しの手帖社 2,500円+税