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2014年10月18日 更新
千倉書房『パリのおばあさんの物語」岸惠子訳セルジュ・ブッロク絵1728円(税込)
 生まれて、生きて、死ぬ。
これは人間だれもが持つ平等な定めです。
けれど何処にどう生まれるかを、人は選ぶことはできません。
この物語のおばあさんの一家はユダヤの人たちです。
       (中略)
 この物語はおばあさんの昔話なので過去と現在が入り乱れます。
 ドイツにはナチス政権がうまれてからユダヤ人はひどい目に遭いました。
600万人ものユダヤ人がガス室に送られたり虐殺されたといわれています。
 それらの暗黒の時代の苦しみを生き抜いたこのおばあさんの天性の明るさ、おちゃめなところ。
人間の邪悪な差別や残忍性におびえながらも、その毒牙から家族を救う冷静な知恵と我慢。
「運命の秘密」を恨みもせず、愚痴もこぼさず、どんなときにも
「明日になれば、きっと良くなるわ」と言うおばあさん。
 
 人間が持つもう一つの平等なさだめは、年老いていくことです。
老いをどう生きるかという大事なテーマのなかで人はその人となりを完成していくのだと思います。
(中略)老いの身の孤独をどう生きてゆけるのか・・・愚痴っぽくて自分勝手な頑固者になるのか、
感謝の気持で他人にも自分にも優しくなれるのか、そこが人間としての勝負どころです。
 
 苦楽が刻んだしわだらけの自分の顔を
「なんて美しいの」
とつぶやくこのおばあさんの、老いと孤独に対するやわらかく爽やかな生き方はすてきです。
        (中略)
 たくさんの人に読んでほしい。
「この広い世界には、いろいろな人が生き、日本にいては考えられない暮らし方をしているのよ」と、
しみじみと知って欲しいと思うのです。

―岸惠子さんあとがきより―