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2021年5月13日
山陽堂書店メールマガジン【2021年5月13日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2021年5月13日配信】

みなさま


こんにちは。
本日5月13日発売の本を紹介します。

「晴れた日にかなしみの一つ」上原隆・双葉文庫
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「自分を道端にころがっている小石のようだと感じたとき、人はどうやって自分を支えるのか」
この問題意識を手にして、様々な人に話を聞いてみることにした。


そう語る上原さんは、これまで20年以上かけて200人以上の人と向き合い、話を聞き、文章を書いてきました。
そして、出会った人たちの話を短い文章でまとめるこの形を「ノンフィクション・コラム」としました。
今回刊行された本書には20の話が書かれています。

「声にならない悲鳴」
38歳のときに研究者になることを諦めて民間企業に就職した男性は、
自分なりに考えながら行っていることがうまくいかなかったり周囲に理解されないことに苦しんでいる。
男性はその思いを帰りの電車の中で1冊のノートに書き綴っており、上原さんは中を見せてもらいます。

ノートのページというページから江藤の叫び声がきこえてくる。
(中略)
多くの職場で、怒られてじっと黙って仕事をしている人がいる。
能力がないといわれて我慢している人がいる。
おそらく、同じ職場の優秀な人たちは、彼らの内面がどんなものなのかを知らない。

ノートに綴られた文字は読んでいてなかなかつらいのですが、
上原さんの言葉で言うところの「自分を支える杖」になる存在が男性には居ることに救われます。
別れ際、上原さんがかけた言葉に男性は一瞬びっくりした顔をし、それからニコッと笑います。

「婚活しても結婚できない」
上原さんの結論に「確かにそうかもしれないな...」と妙に納得。

「別れ話は公園で」
20代の男女の別れ話が彼女側の視点(心の声)で書かれています。
恋愛に器用とはいえなそうな彼女が心に思う言葉は、目に浮かんでくる無表情な顔の様子と相まって切なくなります。
"こういう苦さ"を思い出してしまいました。

「八年目のファックス」
新婚旅行から帰ってきた直後に27歳の若さで亡くなってしまった女性。
彼女の実家には命日になると毎年、彼女の職場の上司だった男性からファクスが届きます。
ふたりは30近く歳が離れていたものの互いにタメ口で話し、「あんなに仲良くなったのは彼女だけですね」というほどの仲でした。
上原さんは「どうして毎年」とその元上司に尋ねます。
八年目もまたファックスが届きます。

「ログハウス」
自殺してしまった父親が八ヶ岳の麓に土地を買って建てたログハウスに赴く男性。
上原さんはそこに同行し、男性から父親が自殺した経緯など聞きます。
命を絶つ直前に電話があったにも関わらず男性はその声を聞くことが叶いませんでした。
好きだからこそ父親の行為を少なからず肯定したいと考える男性の心のうち。


上原さんはあとがきのなかでこう書いています。
「困難なときに自分を支えるもの、それがどんなものであっても、その人を支えるならば、意味がある」
これがノンフィクション・コラムを書いてきた経験から得た教訓だ。

10代の頃からずっと表現することを仕事にしたいと思っていた上原さんは、
自分の表現というものがつかめないまま「四十代といういい歳になっていた」といいます。
そしてそんな自分を振り返った時に「痛いな」と思うともに、目をそらしてはいけないと考えたそうです。
それが冒頭の言葉に繋がります。
「自分を道端にころがっている小石のようだと感じたとき、人はどうやって自分を支えるのか」
この問題意識を手にして、様々な人に話を聞いてみることにした。

ほとんど誰しもが経験する"挫折"が出発点であり、書かれている話の数々にもそれが通じているように思います。
だからこそ、読んでいて登場人物と自分自身を(部分的にでも)重ねてしまうのかもしれません。
自分をころがっている小石だと感じたり、自分なんて居なくてもいいのではないかと思ったり。
ちょっとしたことや、何も起きていないときにさえ(何も起きていないからこそ?)、そんな瞬間は訪れます。
僕もこれまで何度も思うことがありましたし、これからもそう感じることはあるのだろうなと思います。
「なんか、虚しいな」と。
そんなときには上原隆さんの本を。
「まぁ、それでも歩いていくか」と思わせてくれます。

上原隆さんは山陽堂ブック倶楽部の運営にブックデザイナーの藤田知子さんと共に携わってくださっています。
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