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2021年1月21日
山陽堂書店メールマガジン【2021年1月21日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2021年1月21日配信】

みなさま

こんにちは。
ここ青山に所縁のある著名人のひとりである向田邦子さん。
その没後40年特別イベント「いま、風が吹いている」が青山にあるスパイラルさんで開催されています。

「あ・うん」「蛇蠍のごとく」といった小説作品は読んだことがありましたが、
エッセイは手にしたことがなく、展示に行く前に読んでみようと母に薦められた一冊を読みました。
「霊長類ヒト科動物図鑑」向田邦子・文春文庫
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167901417
書かれているのは、脚本家・作家として多忙な著者が日常のなかで目や耳にして気に留めたあれこれの話。
話が始まって少しすると一行空いて時が遡り、過去を回想したエピソードなどに転じ、またしばらくして話は現在に戻ってきます。
回想される出来事は自身が子どもだった時分の父母や祖母のことが多く、特にお父さんがよく出てきます。
時代を感じさせる昔気質のお父さんの言動は、当事者からしたら大変だったろうなと思ってしまいますが、読んでいて笑えてしまうのは、向田邦子さんがユーモアをもってそれらを書いてくれているからだと思います。
家族だけではなく、知人友人、外国の方なども本には登場するのですが、やはりテレビ・ラジオドラマの脚本家だからでしょうか、「」内に書かれる各人のセリフの数々は目の前で話を聞いているようです。

僕は本のジャンルのなかでエッセイが特に好きなのですが、それは書いた人の声が一番感じられるからかもしれません。
原稿の締切が迫っていても「善は急げ。」と自分に号令をかけて、
つくりたくなってしまった料理をつくるために買い出しに出てしまう向田邦子さん。
いつもとは別のスーパーでの買い物だったり、やむをえず馴染みの美容院さんではないところで髪を整えてもらったことに、「人生至るところに浮気ありという気がする。」という向田邦子さん。
青山でのこと、旅先でのこと、好きだった食べもののこと。
文字を追いながら向田邦子さんのその声が聞こえてくるようでした
と、ここまで書いて本書の解説で作家 吉田篤弘が書かれていた言葉を紹介すると、まるで取って付けたようなのですが。

(前略)これはまったくの独断だが、書棚に並ぶ向田さんのエッセイ集の中で、この本がいちばん向田さんの声を感じる。(解説より)

「いま、風が吹いている」の展示会場には黒柳徹子さんと対談をしている映像が流れていたのですが、向田邦子さんのことはこれまで紙でしか拝見したことがなく、
「もう少しだけ本当の声は聞かないでおこう」と、そこだけは足を止めずに進みました。
自筆原稿、纏っていた衣服、愛用品、旅先で撮った写真などなどが並ぶなか、かっこいいなと特に印象に残ったのは使い込まれた万年筆でした。
会期は今週1月24日(日)まで。
詳しくは下記URLよりご確認ください。
https://www.spiral.co.jp/topics/art-and-event/mukodakuniko

〈郵送販売について〉
ご注文方法等詳しくはこちらよりご確認ください。
http://sanyodo-shoten.co.jp/news/2020/05/post-188.html

おこがましいのですが、向田邦子さんと話をしてみたかったなと思います。
3階の喫茶にきてみてほしかったなと。
せっかちだと自称する向田さんが、ご自宅のマンションから信号をふたつ渡ってきてくれたかはわかりませんが。
でももうそれは叶わず、遺してくれた作品の数々に目と耳を傾けるしかありませんかね。

さて、今日の追伸は僕の知るせっかちな方について。
「コーヒーと煙草」です。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた来週のメールマガジンで。

追伸

「これ何て書いてあるんだ?」
走り書きのメモを手にして家族に訊いている男性。
三代目店主である祖父 和夫がどんな人だったかを表すエピソードのひとつである。
しかし、自分の書いた文字を判読できずに頭を掻いている祖父のその姿を、僕は実際には目にしていない。

ピース缶を携え、四六時中煙草を吸っていたという祖父は、肺がんを患い昭和62年1月に58歳で他界した。
煙草が原因かはわからないけれど、50本入りのピース缶を日に2缶吸っていたというから、まぁそうだろうと思っている。
ただ、戦中戦後を生きた祖父が当時経験したことを思うと、吸い続けするしかなかったのかもしれないと思うようにもなった。
だから、寿命を縮めたかもしれないその煙草を恨む気持ちというのは、自分が歳を重ねるうちになくなった。

6人いる僕ら5世代目のなかで、祖父が腕に抱いた孫は僕の3つ上の姉だけである。
生前の祖父については、祖母はじめ家族から教えてもらうのと、昔から通ってくださっている常連の方からときどき聞くことがある
あまり出回ってない雑誌を仕入れのついでに頼んで買ってきてもらったことがあったなぁ。君はそのお孫さんかぁ」
「僕はねVANさんでよくコーヒーご馳走してもらったよ」
祖父はうちの裏手にかつてあった喫茶店 VANさんへ日に何度も通い、コーヒーを飲み煙草を吸っていたという。
そんなに珈琲が好きだったら、もうあと30年待ってくれていたら良かったのに。

直接その姿を見ていないということもあるだろうけれど、頭に浮かべる祖父がいつだって優しいのは祖母による。
祖父のどんぶり勘定に困った話などをしても、祖母は必ず「でも、人は優しかったからねぇ」と付け加える。
その表情も声色も、いつも本当のことを言っている。

祖父の遺したピース缶が2つある。
ひとつは僕の暮らす部屋の寝室に、もうひとつは3階の喫茶に置いている。
そして、これも生前祖父が使っていたというMINTONのカップは、30年の時を経て喫茶で使われている。
いつかそのカップに淹れた珈琲を祖父に飲んでほしいとは思うけれど、いかんせん僕の淹れる珈琲は時間がかかる。
祖父は淹れている間にしびれを切らして裏のVANさんにいってしまうのではないか。
「和夫さんは本当にせっかちだからねぇ」と、横で祖母が言う。
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