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2020年12月27日
山陽堂書店メールマガジン【2020年12月28日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年12月28日配信】

みなさま


こんばんは。
本日は年内最終営業日でした。
2020年は、これまでであれば進めれらなかった(進めようとも思っていなかった)方向に歩を進められたような気がしています。
できなかったことも変えなければならなかったこともたくさんあった年ですが、
失ってしまったものよりも得られたものの方が多かったと個人的には思っています。
自分と対話する時間が増えて、自分のやりたいことがより明確になったからかもしれません。
自分が書き話す言葉、淹れる珈琲、並べる本、ギャラリーでの展示。
明確になったことで狭まったのではなく、大きく広がったと感じています。

書くことの楽しさを得られたことは、思ってもみなかった嬉しいできごとでした。
それまで半月に1回程度だったものから週に1回のペースで配信するようになったメールマガジンは、
自身の"おばさん化"への恐れがきっかけのひとつではありましたが(2020年4月16日配信より)、
この閉塞感でいっぱいのなかに小さくともふーっと何かを吹きたいな」なんてことを思って配信頻度を増やしました。
楽しかったことであれば楽しかったままに、悩んだり難しかったことであれば、そのなかにも必ずあるおかしみについて書こうと意識しています。
(勝手ながら)ご連絡先を知っていた方々や、配信希望のご連絡をくださった方々に送らせていただいています。
読んだ本の感想と展示や喫茶営業のお知らせ、そして追伸を「毎週書く」と自分で勝手に決めたのですが、
水曜日の夜に一行も書けていないことが何度もあり、「なんで毎週って決めちゃったんだ」と4月の自分を恨んだりもしています。
ちなみに、「追伸はなるべく紹介した本とのつながりを持たせる」という決めごとにも苦労させられました。
全然つながっていないことも往々にしてありましたけれど。
毎週追われるように書きながら、それでもやめなかったのは、これまた僕の勝手なのですが、手紙だと思って書いているからでもあります。
送る相手のわからない不特定多数へのメールではなく、書いて届けているのは僕の知っている"みなさま"(面識のない方もいらっしゃいますが)です。
それから、ご感想のメールにとても励まされましたということもあります。
お会いして面と向かって伝えていただくと逆にたいへん恥ずかしかったりもするのですが!)
毎回「あぁ、今日も拙ねぇなぁ...」と思いながら「もう!ええい!」と送信ボタンを押していて、
恥ずかしいので配信したものはどんどん忘れようと努めているくらいなのですが、ご感想をいただくと嬉しくて「書いて良かったかもなぁ」と思えたりしました。
「自分のぬか漬けおすすめはトマトです!」
「豆を売るおばさんとのやり取り、まんのうの喋ってる様子想像ついてウケたわ」
「ブルンジの子たちとの話、私も考えちゃいました」
みんなでプレゼント交換した時にカエルの小銭入れを受け取らなかったのはたぶん僕な気がします。だとしたらあの時はごめんなさい。」
「『自分がおばさんになってしまうんじゃないか』に笑っちゃいました」
「手のひらの中の砂と向き合う姿、絵葉書のように思い浮かべています」
「ごり男さんは実在するのでしょうか?」
時には紹介した本の作家さんご本人からご連絡をいただけることもあって、それもありがたく嬉しかったです。
また、メールマガジンには噺家さんやコラムニスト、装丁家、出版社の方々などにも登場していただきました。
ご執筆いただいたみなさま、どうもありがとうございました。

友人らからは「長過ぎる」「追伸のために書いてるでしょ?」「ほとんど私信だよね」などと言われていたりもするメールマガジンですが、
来年もどうぞよろしくお願い致します。

◇第15回山陽堂ブック倶楽部(オンライン)
課題本:「日本文学全集 08 」池澤夏樹=個人編集・河出書房新社
※対象となるのは「宇治拾遺物語」町田康訳(P.203〜386)のみです。
日程:2021年1月28日(木)19時より20時30分頃まで
参加人数:8人(※残り2人)
参加費:1,000円
申し込方法:sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)宛てに「1月山陽堂ブック倶楽部参加希望」と明記の上ご連絡ください。
※12月29日〜1月4日の間はお休みのため、お申込みへの返信を致しかねます。ご了承ください。

◇第16回山陽堂ブック倶楽部(オンライン)
課題本:「永い言い訳」西川美和・文春文庫
日程:2月未予定

〈山陽堂書店 年末年始営業日〉
2021年
1月5日(火)〜1月9日(土)11〜17時
1月12日(火)より通常営業

〈山陽堂珈琲 年末年始営業日〉
※こちらは3階喫茶の営業日時です。
2021年
1月8日(金)13〜17時
1月9日(土)11〜17時

SNSでも営業日をお知らせしています。
twitter:@sanyodocoffee
instagram:sanyodocoffee
ご入店は閉店の30分前までにお願い致します。
状況により営業日時が変更となることもございますが予めご了承ください。
※変更の場合は当店HPにてお知らせ致します。
山陽堂書店HP:http://sanyodo-shoten.co.jp/

来年2021年3月5日に山陽堂書店は創業130周年を迎えます
初代 萬納孫次郎が岡山から上京して明治24年(1891年)に青山の地で始めた本屋が、
小さくなっても続いていることを孫次郎はじめ山陽堂書店の歴史に関わってきたみんなは喜んでくれるだろうなと思っています。
100年くらいしたら、今度は自分がそう思われていることを願っています。

数ヶ月を経て再会できた友人や、お店に来てくださった方々。
顔は合わせられないけれど手紙やメールで言葉を届けてくださった方々、行動で伝えてくださった方々。
自分がどれだけ人から力をもらっているのか、内から込み上げ、みなぎってくるものをその度に感じながら感謝する一年でした。
どうもありがとうございました。
来年もまたどうぞよろしくお願い致します。

今日の追伸は「七五三(後編)」です。(やっと完結です。)
前編はこちら(http://sanyodo-shoten.co.jp/blog/2020/12/2020123.html
中編はこちら(http://sanyodo-shoten.co.jp/blog/2020/12/20201210.html
またずいぶん長くなってしまったので、お読みくださる方はそのおつもりで...。
本日も最後までお読みくださりどうもありがとうございました。
みなさま、どうぞ良いお年をお迎えください。

山陽堂書店
萬納 嶺


追伸

(前回までのあらすじ)
高校からの友人Sから3歳になる娘の七五三の写真を撮ってくれと頼まれ、断りきれず引き受けることに。
毎度お馴染みのごり男くんに連絡をとり、「来るように」と指示。
七五三前日の夜、西武線の某駅に集合した僕らはSのお迎え(ベンツ)で自宅に向かい、
Yちゃん(Sのワイフ)の用意してくれた晩ごはんを囲んだ。
当初は緊張していた娘のRも、だんだんとおじさん2人に慣れてきた様子。
「このひと(僕のこと)もごりらさんもここにとまるの?」と尋ねるR。
「そうだよ、今日はここに泊まるよ。おやすみなさい」と見送り、迎えた翌朝...

2階の寝室から聞こえてくるR( Sの娘)の元気な声で目が覚める。
ソファの方に目を向けると、ずっと起きていたのではないかと思うほど、ごり男はすでに「ごり男然」としている。
「こいつは前世が地蔵だったのかもしれないな」と思いながら、おはようと挨拶。
ちょっとするとYちゃん(Sのワイフ)とRが降りてきた。
「あー意外にも起きてるー!え!?そこずっと開いてたの?寒くなかった?」
「いや、まんのさんと話してさっき開けました」とごり男。
我々おじさんたちが一晩過ごしたリビングは空気わるそうだよなと、僕らは庭に面した大きな窓を開けていた。
キッチンに行ったYちゃんがまた声をあげる。
「えー!洗いものしてくれたの?ありがとー!」
そういえばリビングの机にあった鍋も空けたビールの缶も焼酎の瓶もきれいに片付けられている。
記憶になかったので、お風呂に入っている間にSがやってくれたんだなと思い「珍しいこともあるね」と言うと、
「ねー、ほんと。朝ごはんつくるね」とYちゃん。
YちゃんがRに話している声が聞こえてくる。
「ごはんにするかパンにするか訊いてきて」
キッチンとリビングを隔てる壁から、斜めにした体の半分だけを出した3歳のRが僕らに訊く。
「ごはんにする?パンにする?」
「うんとね、Rと同じにする。Rはどっちを食べるの?」
「パン」
「じゃあ、この人(僕は昨夜から"この人"と呼ばれている)はパンにするよ、ごりらさんは?」
「自分もパンで」
「ごりらさんたちパンにするってー!」と、オーダーがキッチンとリビングに響き渡る。
Rはすぐに戻ってきて、また体を半分だけ出して訊く。
「ごりらさんはパンたべる?」
声を出さずに、黙ってこくりと頷くごり男。
Rは体を引っ込めたかと思うとまたすぐに体を半分だけ出して訊く
「ごりらさんはコーヒーのむ?」
あくまで声では返さず、黙ってこくりと頷くごり男。
「ショートケーキもあるよー」とYちゃんが言ったかと思うと、Rが体を半分だけ出して訊く。
「ごりらさんはケーキたべる?」
食べないとは決して言わず、黙って首を横にふるごり男。
「こいつはいま、人間であることを一旦やめてゴリラに徹しているのか?」と推し測るまんの。

朝ごはんできるからパパを呼んできてと頼まれたRと一緒に、Sを起こしに2階にあがる。
声をかけてもムニャムニャとなかなか起きないSに「パパ起きて!」とRはパパの体に勢いよく飛び乗る。
ようやくベッドから出てきたSを連れて戻ると、Yちゃんが「洗いものありがとう」と声をかけた。
「あぁ、それ全部ごり男がやってくれたの」
え?と僕が隣を向くと、揺るぎない証拠を突きつけられた者のように、ごり男は一拍おいてから「自分です」と言った。
ごり男の声を聞くのは久しぶりな気がした。

朝食を終えると、Rは予防接種のためにSと近くの病院に向かった。
その5分後、Sが忘れた財布を届けるためにごり男がその病院に向かった。
大きな窓から足を投げだして庭を眺めながらみんなの帰りを待つ。
背中からはYちゃんがキッチンで食器を洗ってくれている音が聴こえる。
昨晩ひとりで全部の洗いものをしてくれたという、ごり男。
"ごりらさん"がキッチンで手をコマコマさせながらお皿洗っている画っていうのはずいぶんとおもしろいなと、
ひとり想像しながら込み上げてきた笑いを少しだけ庭に蒔いた。

しばらくして帰って来たRは少しおとなしくなっていて、Sに訊くと注射するときに大泣きだったという。
「クレヨンしんちゃん」を見ながらRが少しずつ調子を取り戻したところで、Yちゃんの着物の着付けをしてくれる方がやって来た。
着替え中は和室に入ってこないようにと、YちゃんはRに話している。
Sも着替えに2階に上がってしまった。
どうするのかなとRをみていると、リビングにそのまま残り、ごり男との距離を少しずつ近づけはじめた。
「ごりらさんコーヒーのむ?」
僕が手土産で持ってきたアイス珈琲の瓶を持って来ては蓋を開けようとし、それをごり男が制する。
ということを何度か繰り返しているふたり。
いまコーヒーは大丈夫だということがようやく伝わると、ソファに座るごり男の隣に並び、右手をごり男の背中に添えて静かにテレビを見始めた。
かと思うと、背後に回り、クッションをごり男の背中に押し付けている。
今度はハンカチを取ってきて「ごりらさんのけがしたのはどっちのあし?」と訊いている。
困ったように笑いながら黙っているごり男に「ごりらさん、どっちを怪我したのか訊かれてるよ?」と促すと、
「えっと、そうですね、じゃあこっちです」と指を差した方にRはハンカチをあてがってくれる。
ごり男は頭を少し下げながら「ありがとうございます」と誰にも聞こえないような声でお礼を言っている。
スーツに着替えて戻ってきたSはふたりの様子を目にし、「いつそんなに仲良くなったの?」と笑っていた。

着替えを済ませた晴れ着の一家に、おじさんふたりが同乗し神社へ向かう。
神社の前ではSの両親(じーじとばーば)が待っていた。
並んで待っていたふたりだったけれど、Rが近くなるにつれてじーじが一歩、二歩と前に出てきてしまう。
「じーじ!」と言いながら右足に抱きつくR。
じーじがもっとじーじになったらRに見せようと、その姿を一枚。
境内に入り、家族3人が並んだいわゆるな「七五三の写真」や、動き回るRを追って写真に収める。
じーじはSに「ご祈祷をしてもらうなら次は30分後だよ」と話をしている。
Sがどうしようかなという表情を浮かべ、「まんのうくん、ご祈祷してもらった方がいいかな?」と訊く。
僕らをそこまで付き合わせて良いものかというSなりの気遣いから訊いてくれていることはわかるものの、
七五三の写真撮影を遠慮なくお願いできちゃうくせに、Sのその塩梅はとんちんかんである。
「なんで俺たちが決めんのよ!ご祈祷してもらいなよ!」とツッコむと、Sは笑いながら「そうする」と頷いた。

ご祈祷を待つ間、ごり男は人の願いに目を通していた。
「なんか良いのあった?」
「まぁそうですね、みんな結構真剣です」
結構真剣ですって、どんな感想なんだよ。
「というか、絵馬に住所って書くものなんですかね?」
間違えて同じ名前の人の願い叶えちゃったとかがあるからじゃない?」
「あぁ、そういうことですかね」
納得するんかいと思いながら、一応尋ねてみる。
「このあとSたちはみんなね、かに道楽行くらしいんだけど、もし俺たちも誘われたら」
「それは行かないですね」
ごり男の返しは早かった。
「良かったぁ、行きますって言われたらどうしようかと思ってたから」
「行かないですよ、それは」

ご祈祷を終えたRはもらったお守りが気に入ったようで、
その様子をいくつか収めてから「じゃあ僕らはこのへんで」とSに話し、駅まで送ってもらうことにした。
「ごりらさんもこの人もまた遊びに行ってもいいかな?」と車中で訊いてみると、
Rは一切の反応を見せず、これ以上ないシカトっぷりに車内は笑いに包まれた。
駅前のロータリーで降ろしてもらい、ごりらさんもこの人もRとハイタッチをして別れた。

ふたりになり、ごり男に質問する。
「昨日今日で我々のしたことをひと言でまとめると、どうなるかね?」
「そうっすねぇ、難しいですね...」
「たしかに難しいよなぁ...。じゃあ、まぁとりあえず帰ったら走るわ。走って考えるわ」
「帰ってから走るんですか?じゃあ、自分は自転車で帰ります」
別にそんなとこまで付き合ってくれなくてもいいのだけれど、それはまぁごり男の勝手である。
隣の駅で借りて自宅の最寄駅で返せるレンタサイクルを見つけたごり男は「14キロですね」と距離を発表した。
改札を通るとちょうどごり男の乗る電車が到着するアナウンスが聞こえた。
「行きます」「じゃあね。なんかわかったら連絡するわ」「はい!
一礼してからごり男は階段を駆けていった。

後日。
ごり男に電話をかける。
「あのさ、こないだの我々のことについてだけど」
「はい」
「世の中の平和をひとつくらいはふやしたってことでどうかな?」
「そうですね、まぁ...そうですね...」
まったくもってしっくりきていない様子が伝わってくる。
でもさごり男、ごりらさんの背中に右手が添えられるって、そういうことじゃないかなって僕は思うのだけれど。
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