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2020年8月 7日
山陽堂書店メールマガジン【2020年8月7日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年8月7日配信】

みなさま

こんにちは。
今週は3日・5日・7日に渡り、噺家のみなさんからご寄稿いただいたものを配信致します。
本日は今年2月に前座から二ツ目に昇進しました三遊亭好二郎さんです。
3日に登場していただきました立川生志師匠と同じく福岡大学落語研究会の出身です。

公演情報:9月16日(水)19時開演「元気出せ!好二郎」江戸東京博物館小ホール
その他公演情報は下記HPよりご覧ください。
三遊亭好二郎さんHP:https://sanyutei-kojiro.com/

〈三遊亭好二郎さんプロフィール〉
image3.jpeg
平成2年(1990年) 3月7日生まれ
大分県玖珠郡九重町出身
福岡大学卒業後、営業マンを経て
2016年2月4日 三遊亭兼好に入門、前座名「じゃんけん」
2016年3月12日 両国寄席にて初高座「八九升」
2020年2月1日 二ツ目昇進

〈噺家になられた経緯〉

三遊亭好二郎でございます。

件のコロナウィルスが猛威を振るっている中、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
かくいう私はというと、この原稿を書いている今、落語会のキャンセル・延期の連絡が鳴りやまない状況です。
ここまで仕事が無くなると自宅待機もやむを得ず、生活レベルを落として籠城戦ということになります。
ここしばらくお客様には「これで稽古の時間が増えましたね!噺を磨いてください!やったね!」と前向きなコメントをよく頂くのですが、
落語家というのは存外のんきなもので、本番が無くなると稽古する気も消えてしまいます笑
そりゃそうです。稽古だけやっても名人にはなれないのです。
シュミレーションゴルフだけやってる人がプロゴルファーにはなれますか?
だいたい私は今年の2月に厳しい前座修行を終えて、さぁこれからというタイミングでこんなことになってetc...などと家の中にいても悶々とするばかり。
スマホを見ればおそらく落語会中止の知らせであろう留守番電話がたまっております。
もうメールを開くのすらめんどうだな・・・と自堕落になっていた所に、山陽堂書店さんから本稿のお話を頂きました。
山陽堂書店さんでの落語会が延期になった代わりにと、
私がどんなコラムを書くかも知らないのにご依頼して下さった山陽堂書店さんの懐の深さと粋なお心遣いに感謝申し上げます。
本稿が皆様の暇つぶしになれば幸いです!

さて、"なぜ落語家になったのですか?"
これは噺家が打ち上げでお客様に聞かれる質問No.1でしょう。
(他によくある質問として、"お蕎麦のすすり方出来ますか?"、"普段は着物じゃないんですか?"、"兼好師匠のおかみさんってホントに怖いんですか?"など)
私の答えはというと、「いやぁなんとなく流されて・・・」です。
そう言うとお客様はたいてい「なーんだ。もうちょっとなんかないの?熱い思いとか、感動するエピソードがあるのかと思った」とガッカリした顔をなさいます。
皆様の期待を裏切るようですが、そんなものはありません!(笑)
この記事を最後まで読んでいただければ分かると思いますが、噺家というのはそんな熱い気持ちでやる商売ではないのです。
「オレは日本で一番の噺家になるんだ!!」的なタイプの前座さんはだいたい数年で辞めていきます(笑)
不安定ですし、稼ぎたいならもっと手っ取り早く稼げる仕事はあるし、有名になりたいなら今の世の中もっと楽に有名になれる方法があるはずです。

ではなぜ"なんとなく流されて落語家になったのか?"順を追って説明致します。
そもそも私は落語が好きだったわけではありません。ですが、昔からテレビっ子で、お笑いが大好きでした。笑うのも笑ってもらうのも好きです。
高校生の時にはお笑い好きな友人に影響されて、ダウンタウンさんの洗礼を受けました。
大分の田舎の高校生から見ると、テレビの世界で活躍するお笑い芸人さんがまぶしく見えました。
「よし、俺も大学に入ったら漫才・コントをやるぞ!」と決意したわけです。だって大学では面白い人がモテるって聞いたから。
ね?邪念しかないでしょ?

2008年に福岡大学に入学しまして、さっそく大学で唯一のお笑いサークルだった福岡大学落語研究会に入部しました。
プロの落語家になったOBでは桂梅団治師匠、立川生志師匠、漫才では博多華丸大吉さんがOBにいるとの触れ込みに惹かれて、
いざ入部してみると、漫才やコントを専門にやっている先輩はおらず、真剣に落語を研究する部でした・・・。
先輩方も全くモテそうにない地味な人ばかりで部室も汚いし、クサイし・・・「ああ、俺のキャンパスライフは終わった・・・」と思ったわけです。

しかしいざ落語をやってみるとこれが楽しい!なぜこんなに面白い世界を今まで知らなかったんだろう!
ウケた時は独り占め。失敗したら自分のせい。
何より、全部座布団の上で一人で出来て、シンプルな芸なのに奥が深い。落語のキャラクターも生き生きとしていて魅力的でした。
それからは一気に落語にのめり込みました。
後に師匠となる三遊亭兼好の落語に出会ったのも大学生の時です。
ネタは「看板の一」でした。スピード感があって、ポップでわかりやすい。
当時落研の資料棚にあった10~30年前カセットテープで落語を聞いていた私とっては衝撃でした。
ちなみに、2008年の当時、私の師匠は二ツ目で「三遊亭好二郎」と名乗っておりました。
まさかその名前を後に私が継ぐことになるとは思いもしませんでしたが、とにもかくにもその頃の師匠の落語に一目惚れし、「弟子入りするならこの人だな」と思っておりました。
実はこの時期に、落研OBである立川生志師匠の会のスタッフを何度かやっています。さらに、福岡のローカル番組が落研を取材しに来た時には、生志師匠と一緒に部室で大喜利もやりました(笑)
ですが、生志師匠に弟子入りするのはOBということあり、さすがに距離が近すぎるかなと思い断念しました。
噺家になって、生志師匠にはじめてご挨拶した際に「なぜ俺に弟子入りしないんだ。あの流れならフツー俺だろ」と言われましたがまったくその通りです(笑)
生志師匠にはその後、ネタの稽古をつけて頂いたり、落語会の前座として方々で使って頂きました。私の二ツ目昇進の披露興行にもゲストで出演して下さり、足を向けて寝られないほどお世話になっております。

大学4年生の時には学校のイベントで約600人の前で落語をやりました。
自分で言うのもなんですが、ほとんどが身内のお客様だったのでめちゃくちゃウケました。ホントです。(会場が揺れてました。)
600人の爆笑というのは大変に気持ちの良いもので、初めての感覚でした。
私は気が小さいくせにすぐに調子に乗るたちなようで、その途端に「あ、オレ落語家なろう」と思ったわけです。
(これが後に人生における笑いのピークになるとは知らずに)

その後すぐに両親に相談しましたが、何度話をしても「まずは3年働きなさい。それからでも遅くないはず。兼好師匠もサラリーマンを経験しているんだから。」と言われ、それならと福岡の地場の印刷会社へ入社します。ちなみに、印刷会社に入ったのは作家の中島らもさんの影響です。
親としては3年もすりゃ諦めるだろうと思っていたはずです。
案外私も「すぐに入門出来なかったのだから落語家の縁はなかったんだ。諦めよう」とあんなに好きだった落語を一切聞かなくなりました。
入社してみると仕事が面白くなり、あっさり2年が過ぎました。弟子入りのこともすっかり忘れて"サラリーマンも悪くないな"と思っていた矢先です。
新規の飛び込み営業で、日本最大の落語イベント、博多天神落語祭りを主催している会社へたまたま訪問しました。
チラシやパンフレットの受注も頂き、落語関係の仕事が増えてきました。数年ぶりに落語会にも足を運んでみました。
不思議なもので、あれだけ避けていた落語がふとまた目の前に現れると、ふつふつと落語家になりたい気持ちが高まってくるのです。

このままサラリーマンを続けるか噺家になるか・・・ずっと悩んでおりましたある日のことです!
突然私は、人生の運を前借りしたかのようなバカヅキに恵まれます。
営業をサボッて行ったパチンコで1か月勝ち続けてで50万円稼いだり、女の子にもなぜかモテたし、
福岡の天神コアの前を友達と歩いていたら空からクシャクシャの1万札が落ちてきたりetc...
こんなことあります?空から1万円札ですよ?
今ツイてないのも、この時の運の前借りがあったからじゃないのかと納得するほどのツキ方でした。
こうなると人間というのは単純なもので、「あれ?神様も俺が落語家になるのを応援してるんじゃね?」と調子に乗ってしまいます。
それからは紺屋高尾の久蔵よろしく、何をしていても、どんな小説や映画を観ても、見えない何かから"落語家になれ"と背中を押されているように感じてしまうわけです
今だから言えます。気のせいでした。
ここでやっと落語家になることを決心し、家族に再度相談するわけです。
両親からは半ば呆れ気味に「ホントに3年我慢しやがった・・・じゃあしょうがねぇか」と許可をもらったのですが、
私が3人兄弟の長男ということあり、祖父・祖母からは猛反対なんてものじゃなかったです。
祖父は怒り狂い、祖母は泣き叫び・・・これをなんとか説き伏せ、務めていた会社を4年で退社し入門志願するために九州を発ちます。

意気込みを見せるために師匠の家の近くに勝手に住んで、師匠に何度も直談判し、晴れて2016年2月4日に正式に三遊亭兼好に入門しました。
・・・と、長くなりましたが入門のいきさつは以上です。

これを一から十まで説明するのが面倒なので、毎回「いやぁ、なんとなく流されて・・・」と答えるわけです。
いかがでしょうか?"なんとなく流されて"いくような形で噺家になったことがお分かり頂けたかと思います。

コロナ禍で大変に苦しい落語業界ですが、落語を気軽に聞きに行ける世の中に1日でも早く戻れるように祈っております。

あーあ、そうこうしているうちに、スマホを見ると留守番電話が5件、メールが6件溜まっています・・・きっと中止か延期の連絡だろうなぁ。
・・・コラムの依頼だったらいいのになぁ(笑)

三遊亭好二郎

〈おすすめ本〉

「日本霊異記」伊藤比呂美訳
「今昔物語」福永武彦訳
「宇治拾遺物語」町田康訳
「発心集」伊藤比呂美訳
(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08(河出書房新社)
 
誰でも一度は耳にしたことがある説話集「日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集」
教科書なんかで存在は知っているものの、全て読破したという方はそう多くないと思います。
古い、難しい、内容が固い・・・なんとなくそう思っていませんか?
そんな説話集のイメージをガラリと変えるのが本書です。
有名な「瘤取り爺さん」や「舌切り雀」、能「道成寺」の原話となった説話を伊藤比呂美さん、福永武彦さん、町田康さん以上3名の作家が非常にわかりやすく現代語訳にしています。
現代語に訳されたことで、当時の人々の日常や感性が蘇ってきます。これがまた現代人と変わらないのです(笑)
欲にまみれて生き生きと馬鹿をやっている様子を見ると、「なーんだ、昔も今も人間って変わんないんだ」と安心とします。

"説話"と聞くとありがたい教えがなんとなくイメージされそうですが、この本を読むと、当時の説話が、
むしろ"教え"を口実に人間のダメな部分を面白がることが目的なんじゃないか?とすら思えてくるのです。
まさに立川談志師匠のいう「業の肯定」とでも言いましょうか。バカで愛らしい人たちを生き生きと描く様は落語と共通しているように感じました。
中でも町田康さんの「宇治拾遺物語」はもはや超訳といっても良いでしょう。
独特の口語体で訳された文章は落語好きな方・読書初心者・古典の教科書が苦手な学生に特にオススメです。
どれぐらい超訳かというと、

原文「宇治拾遺物語 1-3 鬼に瘤を取られる事」では"この翁物の憑きたるけるにや、また然るべく神仏の思はせ給ひけるにや、「あはれ、走り出でて舞はばや」"となっているのが、町田康さんの手にかかると・・・

"お爺さんのなかでなにかが弾けた。お爺さんは心の底から思った。踊りたい。踊って踊って踊りまくりたい。そう。私はこれまでの生涯で一度も踊ったことがなかった。精神的にも肉体的にも。こんな瘤のある俺が踊るのを世間が許すわけがない、と思うまでもなく思っていて、自分のなかにある踊りを封印してきたのだ。けれども、もう自分に嘘をつくのは、自分の気持ちを誤魔化すのは嫌だ。私はずっと踊りたかったのだ。踊りたくて踊りたくてたまらなかったのだ。いまそれがやっとわかったんだ!"
・・・とこうなり、

原文「宇治拾遺物語 1-14 小藤太、聟におどされたる事」" これも今は昔、源大納言定房といひける人のもとに、小藤太といふ侍ありけり"
これが町田訳だと・・・

"これもけっこう前の話になってしまうが、源大納言定房という偉いさんのスタッフのなかに藤原小藤太という人がいた"

となってしまうわけです。・・・いかがでしょうか?"スタッフ"て(笑)
この文章だけでも興味を持った方は購入して損はないはずです。

あべこべに、町田康さんの文章が苦手・・・ちゃんと古典の空気を楽しみたいと思った方!
町田康さんの訳がかなり話題になった本巻ですが、全体の構成としても非常に良く出来ています。
①伊藤比呂美さんによって、わかりやすく砕けた調子で訳された色気たっぷりの「日本霊異記」
→②続く福永武彦さんによって、本来の古典に忠実な癖のない文章で訳された「今昔物語」
→③町田康さん超訳で表現された爆笑の「宇治拾遺物語」
→④トリで再び伊藤比呂美さんによるありがたい仏教説話「発心集」に立ち戻る。

これ、何かに似ていませんか?そうです!落語会の番組構成に非常に似てるんです!(笑)

①トップバッターが場を温めて落語を聞く空気にする
→②キッチリと古典落語をやる演者が本寸法の古典をやる
→③色物の芸人、ないし爆笑派の落語家が会場を沸かせる
→④トリの演者が大ネタや人情噺で会を締めくくる
という現代落語会のよくある流れにそっくり!!

3人の作家によるバトンリレーが完璧に出来た本書、ぜひとも手に取って下さい。
きっと古典文化に対するイメージが変わるはずです。

三遊亭好二郎


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