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2020年6月25日
山陽堂書店メールマガジン【2020年6月25日配信】
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
sanyodo1891@gmail.com(担当 マンノウ)までご連絡ください。

山陽堂書店メールマガジン【2020年6月25日配信】

みなさま

こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。

みなさんは映画「ランボー」をご覧になったことはありますでしょうか。
誰もが知る映画なので既に観ている方も多いとは思うのですが、
中にはあのシルベスタスタローンの姿を目に浮かべただけで観た気になっていた僕のような人もいるのではないでしょうか。
僕にとっては今年が、正確にはこの月曜日がランボーデビューの日となりました。
破天荒なランボーが暴れまわってなんちゃら、という話だと勝手に思っていたのですが、
ベトナム帰還兵の彼が決して拭うことのできない悲しみと悪夢を抱えていたとは。
口数の多くないランボーと、かつて上司だった大佐とのラストのやり取りが印象的で、
僕にとっては心に残る映画のひとつになりました。

と、こちらは本屋がお届けするメールマガジン、個人的な「ランボーの日」はさておき。
先週6月20日は「世界難民の日」だということで、新聞やラジオでは先週今週とそのことが多く語られていました。
日本では本来の意味とは異なる形で「〇〇難民」という使われ方もするので、言葉自体は耳馴染みのあるものになっています。
とはいえ「国を追われてしまった人々」については、やはり遠い世界の話だと思ってしまっているのが正直なところ。
彼ら彼女らは、僕のいるここから先のどこか延長線上にいる存在なのだろうか。
あるいは彼ら彼女らのその視線の先に、僕はいるのだろうか。

「アフリカの難民キャンプで暮らす ブジュブラムでのフィールドワーク401日」小俣直彦(こぶな書店)
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ロンドン大学の博士課程で学んでいた著者は研究(並びに学位取得)のため、
ガーナにあるリベリア難民のためのキャンプで暮らしながら、難民の経済活動の現地調査を始めます。
調査者として重要な決まりごとの一つは「調査対象の人物や集団と適切な距離を保つこと」であると、
ロンドン大学での講義で著者は教授陣から教えられます。
それは個人的な感情や主観が調査の客観性を損なってしまう為です
しかし、マラリアに罹った我が子の薬代を捻出できないシングルマザーにお金を渡すなど、
自らに強いていた金銭の授受はしないという決まりを著者は幾度か破ってしまいます。
目の前にいる人を「調査対象者」として捉えるだけでは、あまりに難しいのです。
本書には難民キャンプ住民たちの「隣人」として生活した著者が目の当たりにしたできごとや私的なやり取り
著者の言葉でいうところの「博士論文には収めることのできなかった」日常が記されています。
キャンプ内が厳しい環境であることは間違いなく、登場する人々の多くは自力ではどうすることもできない状況に置かれています。
しかし、なかには制約の多い難民キャンプにおいてもビジネスを成功させている人、
驚くべき手段で北欧の男性と結婚までこぎつけた女性もいて、同じ難民キャンプの住人でも状況はそれぞれに異なることがわかります。
本書が伝えてくれるのは、国際機関の調査やメディア報道から見聞きするのとは異なる、難民たちのもうひとつの姿です。

私は、普段、一般の人々の耳目に触れることのない「等身大の難民の姿」を描くことで、
多くの人々が少しでも難民を「知る」機会になれば、と思って本書を書いた。(本文より)

本を書くことはまた、著者が難民キャンプのある女性と交わした約束でもありました。
その約束が果たされ、この本が遠く青山まで届いたこと。
いつか彼女にそのことが伝わってくれたら。そう思っています。

この本を出版されているこぶな書店さんはフリーの編集者として30年にわたり本の出版に携わってきた小鮒由起子さんが、
上記『アフリカの難民キャンプで暮らす』の刊行とともに立ち上げたひとり出版社です。
※2020年6月20日、韓国の出版社よりこちらの書籍の韓国語版も出版されました。

合わせて紹介したいのがこちら。
「さようなら、オレンジ」岩城けい(ちくま文庫)580円+税
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アフリカのどこかの国で難民だった主人公の女性が、
移住先の第三国 オーストラリアで自分自身を獲得していく姿を描いた小説。
第2回 山陽堂ブック倶楽部でも取り上げました。
2013年 第29回  太宰治賞受賞

映画「ホテルルワンダ」「ルワンダの涙」
ともにフツ族過激派によるツチ族とフツ族穏健派への虐殺について扱った作品です。
希望的なシーンで締めくくられますが、立て続けに観たのでさすがに重いものが残りました。

〈今週のおすすめ本〉

「使ってはいけない言葉」忌野清志郎(百万年書房)1,300円+税
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『もちろん本を読んでいるヤツが偉いとも思わないし、賢いとも限らない。
でも、表現するネタは、自分の中にいっぱいあったほうがいいに決まってる。
少なくとも俺は、あの時代に本を読んでいてよかった、と思っている。』(本文より)
   
高校時代、クラスに忌野清志郎ファンがいた。
校則通りにセーラー服を着ていた彼女であるが(私の時代はスカート丈はわざと長くしていた)
忌野清志郎のコンサートのときはちょっと変わったメイクをし派手な洋服(衣装⁉︎)を身にまとい別人のようだった。
彼の素晴らしさを静かに熱く語り、聴いてみてとレコードを渡された。
あのとき私にもう少し感受性というものがあったならば、
きっと彼女と同じようにメイクをし派手な衣装を着てコンサートに行っていたかもしれない。 

『「努力」と言うと好きなことを犠牲にしてやるようなイメージがあるけど、
だって好きなことやってるわけだから努力じゃなくて遊びだよ。』(本文より)
(山陽堂書店 林美和子)

〈近刊案内〉

「一人称単数」村上春樹(文藝春秋)1,500円+税
7月18日(土)村上春樹さんの6年ぶりとなる短篇小説集が刊行されます。
山陽堂書店でご予約受付中です。

郵送販売についてのご案内はこちらよりご確認ください。

今日の追伸は、「ブルンジでの後悔」です。
今週も最後までメールマガジンお読みくださりありがとうございました。

それではまた来週のメールマガジンで。


山陽堂書店
萬納 嶺


追伸

ちょうどその期間に書いた日記が見当たらないため、少しおぼろげな記憶を辿りながら...

タンザニアを出国した僕は隣国ブルンジに入国した。
ブルンジという国のことはアフリカを訪れるまで聞いたこともなかった。
地図でもなかなか目に留まらないようなとても小さな国で、
それまでにまわってきた国の中でも一、二を争う物価の安さだった。
タンザニアで痛い目に遭ったあとということもあって警戒心を強めていたものの、
全体的に牧歌的な空気が漂っていたことを思い出す。

小さなその国の、あるまちを歩いていたときのこと。
日本でいえば高校生くらいの年頃と思われる男の子に声をかけられた。
話しかけられて食事や物をせがまれることはアフリカではよくあった)
感じの良かった彼と歩きながら話をしているうちに、彼がいつも仲間たちとたむろしているのだろう、
玉突き台のある建物に案内されていた。
(いまここに書きながら、タンザニアでの経験からまったく学んでいなかったのではないかと思う)
「こいつは俺らのなかで一番のバスケットプレイヤーで、こっちの彼はサッカーがうまいんだ」
連れてきてくれた彼が僕に仲間たちを紹介してくれる。
「なんでブルンジに来たの?」から始まる会話がしばらく続いたあとで、「ここは本当に貧乏な国なんだ」という話が始まった。
具体的に何をということは覚えていないのだけれど、「支援をしてほしいんだ」ということを彼らは言った。
彼らの間では、かつてブルンジを訪れた外国人が帰国後に電子機器を送ってくれたという話が流布されているようだった。
「悪いけれど、いつ帰国するかもわからないし、帰国後に経済的な余裕があるかもわからないんだ」
今の僕にそれは約束できないことを伝えた。
それを聞いた彼らの反応や表情は覚えていない。
しかし、その後でた質問に対して返した自分の言葉だけは、それに伴う苦い思いとともにはっきりと覚えている。
「僕たちがお金持ちになるにはどうすればいいかな?」
彼らのうちの誰かに訊かれ、しばらく考えてから僕は答えた。
もっともっと勉強するしかない」
人に言えるほど勉学に勤しんだわけでもなく、日本に生まれただけの自分が何を言うか。
ましてや、この状況から抜け出したいという彼らの強い思いと、
彼ら自身の努力だけではどうにもならないという現実を知りながら、それはあまりに冷たい言葉だったのではないか。
僕はいまもまだ自分の返した言葉について大きく後悔し、
そして未だに、あのとき返すべき言葉があったのかさえわからないでいる。
2020年6月18日
山陽堂書店メールマガジン【2020年6月18日配信】
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山陽堂書店メールマガジン【2020年6月18日配信】

みなさま

こんにちは。
お元気でしょうか。

喫茶店やカフェではなかなか主役にはならない存在を取り上げた本がありました。
「コーヒーゼリーの時間」木村衣有子(SHC)1,400円
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メニューに加えないという選択肢もありながら、たとえ下位打線でも根強く名を連ねるコーヒーゼリー。
ベローチェでいえば、ソフトクリームに主役譲ってない?というコーヒーゼリー。
本書では東西の喫茶店・カフェで提供されているコーヒーゼリーが、その特徴やこだわりとともに紹介されています。
どのお店でも一番人気ではないとされながら、妙にこだわりをもってつくられる各店のコーヒーゼリー。
同じコーヒーゼリーでも、味、かたさ、余韻と追求しているものは千差満別。
本書のユニークなところは、一番手ではない(上位にも食い込まない)"コーヒーゼリーについての話"を通して、
お店全体のこだわりや姿勢が垣間見えるところにもあります。
コーヒーゼリーを大切にしているお店は信用していいのではないかと思わせます。
では、山陽堂書店3階喫茶の珈琲ゼリーはどうなのかというと。
それはいつかみなさんに食べていただき、ご判断を委ねたいと思います。
(と、申しておきながら3階喫茶は現在休業中。悪しからず...)

ちなみに、カフェと喫茶が異なるように、「コーヒー」と「珈琲」もなんとなく分けて考えています。


〈今週のおすすめ〉
遊泳社の辞典三冊 (遊泳舎HP参考)
3冊ともB6版の小ぶりなサイズ、装幀にもこだわった贈り物にもおすすめの辞典です。
(山陽堂書店 遠山秀子)

◇「ロマンスの辞典」望月竜馬 著 / Juliet Smyth 絵 1,600円+税
言葉の魅力をより引き出すイラストもたくさん収録された、時に切なく、時にキュンとする、ロマンチックな辞典。
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◇「悪魔の辞典」望月竜馬 著 / Juliet Smyth 絵 1,600円+税
アンブローズ・ピアスの『悪魔の辞典』を原案に、500単語を悪魔的視点で書き下ろし。
150点を超えるユーモアたっぷりのイラストを収録。文字とイラストの両面から人間の本質を問う、問題作。
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◇「言の葉連想辞典」 あわい絵 / 遊泳舎編 1,800円+税
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「思わずグッとくる、洗練された言い回しを知りたい」
「心が洗われるような、美しい日本語を味わいたい」
語彙力を磨きたい大人や、表現力を磨きたいクリエイターにもおすすめの、インスピレーションを与える一冊。

郵送販売についてのご案内はこちらよりご確認ください。

今日の追伸は、「冷蔵庫のコーヒーゼリー」です。
今週も最後までメールマガジンお読みくださりありがとうございました。

それではまた来週のメールマガジンで。


山陽堂書店
萬納 嶺

追伸

山陽堂書店の現店主である祖母は今年88歳になった。

いまお店には立っていないので、毎日顔を合わせることはないけれど、

時々実家に寄って会ったり、電話で連絡をとっている。

自宅ではマスクを縫ったり、三味線の練習をしたりしているという。

「最近もぐるぐるまわってるの?」と祖母。

それだけ聞くと『いつまでも見つからない探しものをしている人』みたいな言い方だなと思いながら、

天気の良い日はだいたい走っているよと答えて、珈琲ゼリーを作ったら持って行くことを約束する。

 

僕ら孫たちがまだ小学生だった頃、祖母がつくってくれたおやつのひとつがコーヒーゼリーだった。

インスタントコーヒーにゼラチンを混ぜてつくるシンプルなものだったと思う。

コーヒーゼリーにスプーンをのせると少し返ってくるような、しっかりした固さのゼリーだった。

コーヒーゼリーが特別好きだったのかというと、どうだったろうわからない。

それでもつくって!」とお願いしたこともあったように思う。

コーヒーゼリーをつくるときのガラスの入れものはいつも決まっていて、

カクテルグラスより大きな、草花の模様の厚みのあるものだった。

学校から帰って冷蔵庫を開けると、冷やされたコーヒーゼリーが入っていて、

苦いのは嫌だったからガムシロップとクリームをたくさんかけて食べていた。

 

実家に寄って、久しぶりに祖母に会う。

あとで食べてと、瓶に入れた珈琲ゼリーをしまおうと冷蔵庫を開ける。

ここなら目に入るかなと、真ん中より少しだけ右に置く。

祖母もたぶん、そんなふうにしてコーヒーゼリーを置いてくれていたのだと思う。


2020年6月11日
山陽堂書店メールマガジン【2020年6月11日配信】
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山陽堂書店メールマガジン【2020年6月11日配信】

みなさま

こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。

先日、友人から第一子誕生の連絡がありました。
営業再開した百貨店勤務で忙しいだろう彼に代わり、といってはなんですが、今度会った時に話そうと思って読んだのがこちら。
『胎児のはなし』増﨑英明・最相葉月(ミシマ社)1,900円+
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医師である増﨑先生が長崎大学病院にある超音波診断装置で生きている胎児を初めて見たのが1977年。
それから40年以上、産婦人科医として第一線に立ち続けてきた増﨑先生は、胎児のことを研究し続け、
妊婦と胎児を取り巻く環境の変化を目にしてきました。
ライター・編集者である最相葉月さんを生徒に、これまでにわかったことや進歩した診断技術による功罪についてが対話形式で語られます。
増﨑先生という人物を物語るようなこともいくつか書かれていて、
「胎児っておしっこどうしているのだろう?」と、10時間も連続して胎児を観察。
よくそんなに排尿を見ていられるなぁと思いますが、
「イヤというほど見たでしょ、そうするとね、そろそろおしっこするぞーっていうのがわかるんです。」と先生。
そして、1日に約700ccも出すとわかったものの、今度は出されたものはどこにいくのかという疑問が生じ、それは胎児自身が飲んで減らし、
一部は臍帯などを通してお母さんが処理していると考え至ります。(※完全には証明できていないとのこと)
本文は口語調なので、先生のユニークなキャラクターがより伝わってきます。
(ちなみに、最後は「先生申し訳ありません、トイレ行かせてください」と妊婦さんに言われて、はっと気がつき観察を終えたそうです。)

「妊娠は楽しまなくてはいけない」と考える先生ですが、出生前診断、そして優生学という倫理観にも関わることに話が及ぶと、
「楽しいばかりじゃないからやめましょう」という言葉がでます。
しかし、ここで生徒 最相さんは「いや、読者にはきっと、リアルタイムでそれに直面している人もいると思うのであえてそちらにいきたいと思うのですが、」
と話を進め、質問を続けます。
そこから続く先生と最相さんの話にまた、読者への誠実さを感じました。

この本を読んでから友人にどんな話をしようかと考えましたが、
驚きの大きかったことのひとつ
「男(父)と母(女)は胎児(子)を介してDNAで生物学的に繋がる」ということと、
「ふたりが似てくるようなことがあったら、それはそういうことかもしれん」と伝えようと思います。


〈今週のおすすめ〉
今回は本の雑誌社 高野夏奈さんに本を紹介していただきます。
神田神保町には中小の出版取次がいくつかあり、流通のことを何も知らなかった僕を案内してくれたのが高野さんでした。

『つくるたべるよむ』本の雑誌編集部編 (本の雑誌社)1,700円+税
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『つくるたべるよむ』は「料理」&「本」のプロフェッショナルが続々登場のおいしいブックガイドです。食の世界の気になるあの人(久住昌之、鈴木智彦、木村衣有子、水野仁輔)は何を考えているんだろう。フレンチシェフ道野正の珠玉の読書遍歴、児童書の食(高頭佐和子)、許永中の望郷のグルメ(urbansea)、文学賞を支える料亭一代記(川口則弘)。堀部篤史が探る片岡義男らの食、山下賢二は独白の創作を綴る――。料理書専門の町の本屋に、文芸、アート、同人誌のおススメも出揃いました。次々と顔を出す多彩な本、本、本。この一冊でどこまでも読書が広がります。(本の雑誌社 高野夏奈)

『サルデーニャの蜜蜂』内田洋子(小学館)1,700円+税
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「歴史は、無名の人達の小さな歴史が積み重なり連なって成されるものだ。
表に見えてる顔がポピュラーなイタリアなら、底に潜むいくつもの影もまたイタリアである。」(本文より) 
ローマ時代から続く養蜂家一族・代々、本を行商してきた村人。
ともすれば埋もれてしまう記憶をイタリア在住40余年の著者が描く15編のエッセイ。
(山陽堂書店 林美和子)

郵送販売についてのご案内はこちらよりご確認ください。

【営業時間・休業日について】
引き続きしばらくの間 平日10〜17時の営業とさせていただきます。
変更等は店頭・HPなどでお知らせ致します。

今日の追伸は、「愛すべき友人E」です。
今週も最後までメールマガジンお読みくださりありがとうございました。

それではまた来週のメールマガジンで。


山陽堂書店
萬納 嶺

追伸

第一子誕生を知らせる友人Eからのメッセージが届いた。

まんのー!

皆様!

明け方、無事に女の子が産まれました!

こんな状況の中ですが、母子共に健康ですわ!

(後略

 

連続する感嘆符から彼の喜びと興奮が伝わってくる。

僕も友人に子どもが産まれたことは嬉しく、「奴も父親かぁ」と、にやりともしてしまった。

だが、しかし。

文字を追いながらなんともやるせない気持ちも生じ、部長にメッセージを送った。

部長:メルマガ初登場。高校大学の同級生。僕の身に起きた些事から、

元サッカーブラジル代表 フッキが元妻の姪と結婚するという世界的な出来事まで、

幅広く話を聞いてくれる長年の相談役。滋味深き助言や行間に忍ばせるユーモアへの敬意を込めて部長と呼んでいる。)

 

(メッセージを転送し)

僕「部長、Eからこのようにめでたい報告をいただきました。

ただ、名前を呼ばれたから振り向いたのに「皆様」と続き、少々やるせないところもあります。」

部長「さながらまんのくんにそこをどいてくれと言わんばかりですね。グイっと肩を入れられています。」

僕「はい。私はEの声もよく聞こえないまま、ほとんど背中を見ていただけでした。」

 

先述のEのメッセージから僕らが頭に浮かべ共有した情景は以下のようなものだった。


呼ばれて振り向いた僕を押しのけるように通り過ぎ、眼下の聴衆に向かって大きな声で子どもの誕生を知らせる友人E

(彼は両手を掲げてガッツポーズさえ決めている)

そして、彼の背後でぽつねんとしている僕...

 

一斉送信の文言をそのまま使ってくれて(コピー&ペーストだって)構わない。

多くに喜びを伝えているなか個人に連絡をくれただけでもありがたく思う。

ただそれだけに、そしてまた個人名を書き添えてくれたがため余計際立ってしまった「皆様!」が生んだ、やるせなく滑稽ともいえる情景。

子どもの誕生と合わせてそれも記憶しておこう。

Eも高校時代からの友人、彼が愛されるより"愛すべき"人間である証のひとつとして。


2020年6月 4日
山陽堂書店メールマガジン【2020年6月4日配信】
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山陽堂書店メールマガジン【2020年6月4日配信】

みなさま

こんにちは。
お元気でしょうか。
ここ最近の僕はというと。
「私たちにも豆煮たら食べさせてよ」
母からの急な煮豆要求に「え?なんで?」と返してしまいましたが、
配信前のメールマガジンは母らが校閲を担当しており、前回の追伸を受けての言葉でした。
手間が増えるわけでもなく、誰かのためにつくった方が美味しくなるとは思うので、「いつ煮るかわかんないけど」と承りはしましたが、
それにしても個人ではなく「私たち」と、僕を除く山陽堂書店員を代表した声として要求してくるあたり、卓越した話法だなと感じました。
塩茹でや砂糖で煮るほかにひと手間加えた豆料理をつくろうと、
今年3月の「小林カツ代展」でお世話になった本田明子さんの野菜の常備おかず」(2013年・Gakken)を開き
チリビーンズだな」と心に決めた翌々日の今週月曜日、
前々日に本のなかでチリビーンズを指南してくれた当の本田さんが「本ができました」と、6月4日発売予定の新刊を持ってお店を訪ねてくれました。
久々に会えた嬉しさからお喋りモードに入ってしまった山陽堂書店一同の近況やら豆の話にお付き合いいただきました。)
「本田さんちのおかずが美味しい理由」本田明子・Gakken 1,400円+税(6月4日発売)
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2案候補があった表紙は山陽堂書店も1票投じさせていただいた「肉じゃが」に。
今回刊行された書籍の「はじめに」では、幼稚園児だったある日のお弁当に毎日入っているはずの大好きな卵焼きが入っておらず、フタを開けた途端にさめざめと泣いてしまったというエピソードが紹介されています。(本人は覚えていらっしゃらないとのこと)
毎日食べたいほどの大好きなおかずがその頃からあった本田さんの原体験が、いまのお仕事にも繋がっているのでしょうか。
そんなおかずをより美味しく作るためのコツを本田さんは師匠である小林カツ代さんのもとで背中をみて学んできましたが、そのコツを断言できるものもあれば、判然としないものもあったそうです。
それを突き止めようという趣旨のもと、「ここがコツだ!」とわかったことを紹介してくれているのが本書です。
本の中でそのコツは文字の大きさ、太さ、背景色などでわかりやすく示されていますが、
その言葉が"本田調"(失敬)であることで、そばで言葉をかけてくれているような、より伝わりやすい言葉になっているように思います。
「あとは腹をくくって堂々と作る!」(麻婆豆腐)
「あらよっと!と声に出しながら巻いていきましょう。」(卵焼き)
「きれいな水に豆腐をざぶん!」(肉豆腐)
冒頭にある、おにぎりを握る本田さんの写真をご覧いただければ、直接お会いしたことがなくても、
お名前の通り本田明子さんの明るいキャラクターをお分かりいただき、話される様子も伝わってくるかと思います。
ちなみに書籍タイトルの「本田さんちのおかずが美味しい理由」の「理由」は「ワケ」とフリガナがふられています。
この本にあるこれを作ろうと、いくつか決めているものはありますが、
煮豆よろしく、どこからどんな要求があるか分かりませんので、今回ここに記すことは控えます。

Bookstore AID〉ご報告

まちの書店・古書店をひとつでもなくさないことを目的に始まったこちらのプロジェクトは先週5月29日で受付を終了致しました。

ご協力いただいた皆様のおかげで、4476人の支援者より総額47,548,000円の支援金が集まりました。

支援金と共にいただいた本屋へのメッセージの数々にも励まされました。
どうもありがとうございました。
ご選択いただいたコースの返礼方法等については運営事務局より順次ご案内がある予定です。
どうぞよろしくお願い致します。


〈今週のおすすめ〉

今回はいつも新刊のご案内を持って当店に営業にきてくださる文化出版局の藤波祐介さんに本を紹介していただきます。

『いちじく好きのためのレシピ』福田里香(文化出版局)1,500円+税
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野菜も果物もなんでも一年中手に入るようになった今日、季節感のある数少ない果物がいちじくではないでしょうか。
お店にこれが並ぶといよいよ夏かと思います。
とろっとみずみずしく、上品な甘さ。
そのまま生で食べるひとも多いと思いますが、ケーキやタルトにしてみたり、サラダや生ハムに合わせてみてもおいしい。
また、ドライいちじくだと甘みが凝縮されプチプチとした食感も楽しめます。
本書では生とドライのいちじくを使いながら、さまざまな食べ方から食べごろの見分け方、
保存方法など知られざるいちじくの世界を余すところなく紹介しています。
ちなみにこのプチプチしたものは種ではなく、秕(しいな)という出来損ないの種のカラなのだそう。
漢字で「無花果」と書くため花が咲かないと思われがちですが、じつは果実のなかで密かに咲いている。
その痕跡がプチプチの正体、と知らないことの多いいちじくです。
今でこそミネラルや食物繊維が豊富な健康食物として知られていますが、昔はどこにでもなっている身近ななりものでした。
俳句にもよく使われ(意外、秋の季語)、ちょっと調べただけでも
いちじくをもぐ手に伝ふ雨雫 (高浜虚子)
手がとどくいちじくのうれざま (種田山頭火)
無花果を頒ちて食ふる子等がゐて (山口誓子)
などがあります。
季節を食す。
何気ない日常が、じつは得がたい幸せだったと気づかされる昨今。
そんな幸せを噛みしめて。
いちゞくの熟れしを日曜日とせり (細見綾子)
(文化出版局 藤波祐介)

郵送販売についてのご案内はこちらよりご確認ください。

今日の追伸は、「丘の上のいちじく」です。
今週も最後までメールマガジンお読みくださりありがとうございました。

それではまた来週のメールマガジンで。


山陽堂書店
萬納 嶺


追伸
大学生の時分、夏休みになると僕らはごり男に実家へ帰省するよう促し、同行していた。

(※くんは大学時代の、というよは生涯にわた後輩であることを宣告された人物で、れまでも度々このメールマガジンに登場しています。)

東尾道駅を降りるとごり男のお母さんが車で迎えにきてくれていて僕らが東尾道に滞在する間貸してくれるその車でごり男のおばあちゃん家に向かい、そこで寝泊りさせてもらっていた。

おばあちゃんは丘の上の一軒家に犬と一緒に暮らし、ごり男のことを「ともくん」と呼んだ。連れのひとり(あきらという大男)はそれを聞いて「お前の下の名前、"とも"何とかっていうんだな」と言ったことがあった。

今まで知らなかったということもさることながら、"とも"に続く名前を尋ねる(知る)気のないこの発言。

ごり男の方も改めて下の名前を知ってもらおうという気はないのか、「はい」としか言わなかった。ふたりのやり取りに「こいつらいろいろとさすがだな」と思った記憶がある。


初めて遊びにいった夏、遊んで帰ってきた僕たちが畳で寝転んでいると、おばあちゃんは茶菓子や飲みものと一緒に山盛りのいちじくをだしてくれた。
尾道はいちじくの産地で、農家のひとがつくっている以外に家々の庭でも取れるらしく、ご近所からもらうこともあるようだった。
(丘をくだったところにある無人販売所でも5、6個入って100円や200円という破格の安さで売っていた。)
あきらは寝転びながらひとつふたつ食べて満足し、ごり男は既に一生分食べたらしく、手をつけようともしない。
必然、僕だけが食べることになったけれど、果物好きということもあって一気に食べた。
一度に食べたことのない量のいちじくを食べ終え「ごちそうさまです」と伝えると、
「全部食べたんかいね」と言っておばあちゃんはゆっくりと椅子から立ち上がった。
冷蔵庫から取り出され、「これも食べんさい」と僕らの前に置かれたそれは、さっきも見た山盛りのいちじくだった。
「またいちじくです」
ごり男は状況を解説した。

大学を卒業してから何年かは行けずにいたものの、縁もあってまた尾道に遊びにいくようになった。
レンタカーを借り、宿に泊まるようになったけれど、丘の上にはいつも顔を出している。
大正生まれのおばあちゃんは健在で、僕らが訪ねると「友だちは大切じゃけえ大切にしんさいね」と、ともくんに言う。
歳を重ねるごとに僕らの図々しさは増したのか、スーパーで食べてみたい食材(アコウという高級魚など)を買って来ては、
「煮付けでお願いします」とごり男の母に調理のお願いまでするようになった。

昨年はどうしても都合がつかず、残念ながら遊びに行くことができなかった。
「来年は遠慮なく遊びにいきます」
そう書いて暑中見舞いを送ると、後日お店に荷物が届いた。
ダンボールの中の新聞紙には、丘で採れたいちじくが包まれていた。
たぶんおかわりを用意してくれているから、また遊びに行かなきゃなと思っている。
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