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山陽堂書店メールマガジン【2020年5月28日配信】
みなさま
こんにちは。
甥っ子の通う小学校も6月から分散登校が始まります。
不安がないわけではないですが、彼が友だちと一緒に過ごす時間が少しでも戻ることは嬉しく思います。
新しい遊びなんかも彼らなりに考えて生まれるのでしょうか。
さて、本日は山陽堂書店が描かれたオリジナルポストカードを紹介します。
今春新たに2種類が加わり、全6種類となりました。
ポストカードに使用している紙はアラベールという種類のナチュラル色で落ち着いた風合いと素朴な手触りが特徴です。
(※タダジュンさんのポストカードは、より白色がはっきりとしたヴァンヌーボのスノーホワイト色です。)
小林七郎(アニメーション美術監督)
展示:2019年9月「アニメ美術から学ぶ≪絵の心≫」展
1960年代から2010年代まで「ガンバの冒険」「あしたのジョー2」「のだめカンタービレ」など、
これまで150本以上のアニメを手がけてきたアニメ美術界の第一人者です。
展示ではアニメ背景画のほか幼少期~教員時代の貴重な画を展示してもらいました。
一線は退かれましたが、88歳の今もご自宅のアトリエで日々作品を描かれ、海外からも講演に招かれるなど活躍されています。
タダジュン(イラストレーター / 版画家)
展示:2013年「こころ朗らなれ、誰もみな 版画展」・2015年「本と版画展」・2019年「銅版画展」
「ガラスの街」ポールオースター(新潮文庫)や「猫と偶然」春日武彦(作品社)の装画もタダさんの作品です。
展示設営のときにタダさんが「腹筋を鍛えるようになってから体調が良い」という話をされたところから、
アブローラー仲間であることがわかりました。
以降、転がす度にタダさんを思い出すようになりました。モチベーション維持はタダさんのおかげでもあります。
※アブローラーとは車輪を転がして体を前方に伸ばして腹筋を鍛える器具。なかなかしんどい。
庄野ナホコ(イラストレーター)
展示:2015年「二番目の悪者 原画展」・2018年「せかいいちの いちご 原画展」・2019年「Books & Birds 展」雑誌 BURUTUS 本屋特集の際の表紙としても知られています。
絵本「ルッキオとフリフリ」(講談社)シリーズや「二番目の悪者」作 林木林 ・絵 庄野ナホコ(小さい書房)など。
お店の前に佇んでいる鳥を、うちの誰かが最初に「ハバヒロコウ」と言ったことから、しばらく山陽堂書店内では誤って認識されていましたが、
正しくは「ハシビロコウ」です。
(ハバヒロコウでも確かにそれっぽく思えるところに落とし穴がありました。)
山﨑杉夫(イラストレーター)
展示:
2015年「小説推理 表紙原画展」・2019年「東京三十六景 PART.2」 ・2019年 SIS企画展「水丸先生のことば」(※グループ参加)「大好きな町に用がある」角田光代(SWITCH LIBRARY)などの書籍装画はじめ、噺家 立川生志師匠の独演会チラシも作られています。
ポストカードはカラーの作品と、青色が中心の切り貼り絵作品の2種類を作らせてもらいました。
個人的には酒席を共にさせてもらう機会が多く、昨年12月は4回忘年会で同席。
「お互いなかなか年を越せないね」という話になりました。
3階喫茶でお手拭きとして使用しているスポンジワイプも山﨑さんのデザインです。
平澤一平(イラストレーター)
展示:2013年「はやくはやくっていわないで」・2014年「だいじなだいじなぼくのはこ」・
2014年「ネコリンピック」・2016年「わたしのじてんしゃ」※すべて原画展
ポストカードにさせてもらった作品は紙ではなく彫られた木に描かれています。
昨年久しぶりにお会いした時に「ひげ剃られたんですね」と伝えたところ、
「気づいてくれたの兄貴だけなんですよ」と深めのありがとうございますを返してくれました。
山陽堂書店ポストカードセット(6枚)
各1枚 税込165円・全6種類「山陽堂書店ポストカードセット」は少しお得な税込825円で販売しています。
ポストカードセットはスマートレター(180円)での郵送が可能です。
〈Bookstore AID〉(あした5月29日まで)
〈今週のおすすめ〉
◇「はじめて茶会に招かれました」淡交社編集局(淡交社)1,000円+税
何も知らない初心者にわかりやすくイラスト入りで田中君と花子さんが作法を教えてくれます。
(山陽堂書店 萬納優子)
◇「わすれられないおくりもの」スーザン・バーレイ(評論社)1,200円+税
スーザン・バーレイのやさしい絵と共に読んでいくと最後には大切な人をなくすことは悲しみだけではないことに気づきます。
(山陽堂書店 萬納優子)
郵送販売についてのご案内はこちらよりご覧ください。
今日の追伸は、「新しい生活様式 おばちゃんの声かけ編」です。
今週も最後までメールマガジンお読みくださりありがとうございました。
山陽堂書店
萬納 嶺
追伸
自宅近くの商店で乾物棚に並べられたなかから豆を二種類手に取ると、
「あんた豆煮るのかい?」と店のおばちゃんから声がかかった。
そうですと答えて、見たことのない方の豆を指して「こっちはなんていう豆ですかね?煮方は他と変わらないですか?」と訊くと、
水に浸すところから説明を始めてくれた。
おばちゃんの説明はだんだんと熱がこもり、最終的にはマスクを外しこう言ってフィニッシュした。
「近所の退職したじいさんたちなんかも豆煮るようになってさ、うまくできると持ってきたりすんのよね!あんたもうまく煮えたら待ってるよ!」
自分で売って、人が作って、自分で食うという画期的な商いの法に笑わされた。
店を出てから、ふと考えた。
僕自身はそこまで気にしないけれど、人によってはマスクを外して話すことに引いてしまう人もいるかもしれないと。
マスク越しであっても、いまは話しかけられることを厭う人もいると思う。
ある程度留意すべきなのだとは思うけれど、お客さんと必要以上に話さないようにしようなんてことをおばちゃんが考えないといいなと、
勝手にそう思ったりする。
「うまく煮て持ってきな!」(多少悪意を持っての翻訳)で締め括られた一連の言動は、
同じ「買う」でも僕にとってはおもしろい時間に変わったのだから。
とまぁ、一度しか行ったことのないお店のおばちゃんに思い巡らせて何を勝手に言うか、という話ではあるのだけれど。
ちょっとしたらまた行って、結局教えてもらっていない豆の名前を教えてもらおうと思う。
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山陽堂書店メールマガジン【2020年5月21日配信】
みなさま
こんにちは。
喫茶営業をお休みするようになって久しいです。
豆を挽く時は右回りだったか、いや、左回りだったか。
そんなことまで忘れてしまわぬよう、毎週カウンターに立って珈琲を淹れています。
淹れてから飲むまでがひとりで完結してしまうという寂しさを少しでも紛らわそうと、
いつもとは異なる珈琲豆を使ってみたり、ゼリーの固さを変えてみたりしますが、もちろん紛れません。
受け取ってくれる誰かとの共同の行為だったこと、はっきりとわかりました。
(それは本であっても、日々の多くのことにおいてもいえることですが)
そんなことを思っていたときに改めて手にとって読んだ本がこちらです。
「大坊珈琲店のマニュアル」大坊勝次(誠文堂新光社)2,800円+税金
右側はカバーを外した状態の書籍
山陽堂書店から青山通りを挟んだ反対側の通りに、大坊珈琲店というお店がありました。
2013年12月に入居していたビルの建て壊しに伴い閉店するまでの38年間、
店主 大坊勝次さんは手廻しロースターで豆を焙煎し、ネルドリップで珈琲を淹れていました。
大坊さんは焙煎や抽出のためにお客様との会話も叶わないことが多かったのですが、
合わせた目と目、そして一杯の珈琲を通して交わされる、言葉を伴わないコミュニケーションがあったことが本書からわかります。
本の中ではお店を始める前、お店を始めてから、そして閉じる決断をされてから、
その時々で大坊さんは何をどのように考えられていたのかも語られており、その人柄が伝わってきます。
具体的な焙煎の方法やブレンドの割合なども示されており、思わず手廻しロースターを調べてしまったのですが、
焙煎を始めてしまってはいよいよ書店員ではなくなってしまうと、いまのところそれは自制しています。
ひとつだけ、本には書かれていない話を。
大坊さんが山陽堂書店にいらしたときに話してくれたことで印象に残っている言葉があります。
「青山というまちにこんな珈琲屋があるという、うちのようなお店でもまちを形づくる何かを担っているという思いはありました」
大坊さんはいま全国各地で講師として焙煎やネルドリップ抽出の方法を教え、出張珈琲店を行っています。
※山陽堂書店でもこれまでに3回出張珈琲店を行っていただいています。
今日の追伸は、迷子になった話です。
〈今週のおすすめ〉
今回は、「日刊ゲンダイ」「HANAKO」 「Olive」 などの創刊編集長として一貫して編集畑を歩いてこられ、
樹木希林さんとも親交のあった編集者・椎根和さんにご著書を紹介していただきます。
◇『希林のコトダマ』椎根和著(芸術新聞社)1,500円+税
http://www.gei-shin.co.jp/books/ISBN978-4-87586-585-8.html
編集者、椎根和の「希林のコトダマ」(芸術新聞社)が発売されております。樹木希林さんは、すごい読書家でした。
そして百冊の本が書棚に残されていました。希林さんの数々の名発言、セリフの素になった百冊です。
椎根は、その百冊を読み、希林さんがどんな影響を受けていたのか、というところを書きました。
希林さんは、その本たちから発せられるコトダマを、ことあるごとに自分の発言に取り込んでいました。
そんな希林さんのココロの働き方が、リアルに判るように書いたつもりです。
また希林さんのココロの日記帳ともいうべき「雑記帳」も、内田也哉子さん、本木雅弘さんの好意で転載することができました。
そのなかには、たとえば、坂東玉三郎が、希林さんに、プロポーズしていた、とドキッとするような文章もありました。
表紙の絵は、希林さんのお孫さん、玄兎クンが描いたものです。まだ、九歳ですが、もう自分のタッチを持っていて、
とても九歳の小学生の絵とは、思えない、素晴らしい出来映えです。希林さんが、生きていたら、表紙の絵を一番喜んでくれた、と思います。
(編集者 椎根 和)
◇「光るサラダ」有元葉子(文化出版局)1,700円+税
サラダじょうずになるための26のヒントが。
まずは野菜を生き返らせる〝養生"が大切!(山陽堂書店 林)
〈Bookstore AID〉(5月29日まで・残り9日)
まちの書店・古書店をひとつでもなくさないことを目的に始まったプロジェクトです。
山陽堂書店も「図書券参加書店」として参加させていただいています。まちに本屋があり続けられるよう、プロジェクトにご賛同いただけましたら、ご協力のほどどうぞよろしくお願い致します。
Bookstore AIDについて詳しくはこちらをご覧ください。
今週も最後までメールマガジンお読みくださりありがとうございました。
それではまた来週のメールマガジンで。
山陽堂書店
萬納 嶺
追伸
家から小田急線沿いに進み、世田谷代田で環七に折れて、少し進んだら今度は井の頭通りに沿ってあとはまっすぐ。
代々木公園の間を行き、最後は表参道の欅並木を一気に駆け上がる。
毎朝自転車で40分かけて行くこの通勤路を、気まぐれで外して行くことがある。
雨上がりの先週火曜日もそうだった。
いつもは曲がる世田谷代田をまっすぐ。下北沢を通って店に行こうと思った。
何度か通ったことのある道を進んでから、それは「ここでもちょっと曲がってみるか」という出来心だった。
見覚えのない住宅街に入り込んでしまった。
ここで引き返せば良いものを「来た道は戻らない」という信条ほどでもないマイルールがそれを許さない。(引き返せば良いのに)
と、さらに進んだところで、いつかの記憶を呼び戻す道に出くわす。
しかし思い出されたのは、「前にもこの道を通って迷ったな」という記憶で、
あのときどうやってその状況を脱したかまでは思い出せない。
「ということはつまり(この前と同じように)これからまた迷子になるんだな」という確信をもって道を進む。
だんだんと人がまばらに見られるようになったところで、ようやく車も行き交うような道に出た。
たしかこの道は下北沢駅近くにも通じる道路だということにひと安心して、黄色から赤に変わろうとする信号で止まり、
そして、これから青になる信号を渡ろうとしていた大坊さんに会った。
「!」マスクの上から覗く目と目でお互いに驚きを伝える。
「偶然ですねぇ」と大坊さん。
「はい!すいません!」
急に謝るという失態を取り繕うように「いまちょうど(大坊さんの)本を読んでいるんです」と矢継ぎ早に伝え、
二言三言交わしたところで信号が変わった。
「それではまたね」と大坊さんは雨上がりの道を颯爽と去って行った。
なんと言うか。
道に迷うこともまた一興、と捉えて良いのだろうか。
とりあえず、「うちのお店こっちですかね?」なんてことを口に出さなくて良かった。
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みなさま
こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。
今年2月時点での予定では。
いま頃ロンドンの友人を訪ね、今年で役目を終えるという創設100年超のスタジアムで一緒にサッカーを観て、
その後ひとり東欧で蚤の市を周りながら喫茶で利用するカトラリーやカップほか小物なんかを探している、はずでした。
だからというわけではないのですが、手にして読んだ本がこちら。
『欧州 旅するフットボール』豊福晋(双葉社)1,400円+税
サッカーファンや競技として取り組んでいた人にとって、サッカーが文化になっている国に対してはある種の憧れのようなものがあります。
その土地に、生きる人々に、思想にまで"サッカーが染みついている"といいましょうか。
100年以上続くクラブが多くある欧州では、それぞれのクラブに哲学があり、
それはその土地に住む人たちのアイデンティティにまでなっていることもあります。
生まれてから死ぬまでひとつのクラブを愛する人生に、ぐっときます。
バルセロナ在住で5ヶ国語を操る著者は、選手への取材などで欧州各国を訪れ、先々でバルに入っては地元の人とサッカー談義を交わします。
普段目にする映像や記事では感じられない、サッカーが心身に染み込んだ人々の、その息遣いが伝わってきます。
取材した選手とのことも書かれていて、中でもポルトガルの往年の名プレイヤーであるルイ・コスタと「10番について語る」話が個人的には気に入っています。
現代サッカーにおいてはスピードが大きな要素を占めるようになり、選手個々に求めらるプレーも以前と比べて大きく異なります。
サッカーでエースナンバーとされる10番を背負う選手の役割も変わりました。
それでもなお、先述のルイ・コスタやイタリアのロベルト・バッジオ(両者とも既に現役引退)のような選手が僕にとっては「真の10番」です。
また欧州を訪れるその時が近い将来であることを願っています。
(と、このように紹介を書きつつ、付箋を貼った箇所を見直してみると半分近くが土地のおいしそうな食べものについての記述でした。悪しからず)
今日の追伸はラオスでのサッカーの話です。
〈今週のおすすめ〉
今回は荻窪にあります出版社 雷鳥社の林由梨さんにも本を紹介していただきます。
◇『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』鈴木純(雷鳥社)1,600円+税
本書は、"植物観察家"の植物中心の日常・視線を、漫画のようなコマ割りで追体験することができます。
この画期的なページの見せ方はデザイナー窪田実莉さんの案によるもの。
著者の鈴木純さんの植物への愛情や、発見の喜びが伝わるようにと、丁寧に組んでくださいました。
さて、編集の私の役目はなんだったのかというと、植物に詳しくない「素人の疑問」をぶつけて、誰でもわかりやすく読める本にまとめること。
鈴木さんにとっての当たり前が、私にとっては全て初めて聞くこと・見ること。
知らない世界があまりにも多いことに気付かされ、知らないことがあるのって楽しいもんだ!と前向きに思えたのは、
鈴木さんがどんな質問にも率直に答えてくれたから。
この本を読んで、そんな「知る喜び」も体験していただけたら嬉しいです。
そういえば、もともと春に出版するはずだったのに、9月発売になってしまいました。
作った人達のこだわりのせいでしょうか。写真のアングルに最後までこだわる著者。紙だけは譲らないデザイナー。
カバーに「ヤブカラシ」の写真を使いたくて関係者をひとりずつ説得していく編集...。そんなこんなでこの本が生まれました。
(雷鳥社 林由梨)
山陽堂書店では著者 鈴木純さんに11月・1月と青山表参道で植物観察会を開催してもらいました。
そのとき鈴木純さんが仰っていたことで印象に残っているのが、
「学術書にはそう書かれていますが、それが正しいとは限らない」という言葉でした。
研究され解明されたとされる植物の生態も、それはあくまで「そうだと考えられる」ということで、
「みなさんはどう思いますか?」と訊かれたときに、自分で考えてみることの大切さも教えてもらった思いでした。
林さんにとっては初めて担当されたのがこの本とのことです。
大切につくられたことが伝わってきます。
◇『高校生と考える日本の論点2020-2030 桐光学園大学訪問授業』(左右社) 1,800円+税
作家、社会学者、グラフィックデザイナーなど様々なジャンルの大人たちが高校生に語りかける。
著者に出口治明、沢木耕太郎、会田誠、岸政彦ほか(山陽堂書店 林)
《郵送販売》についてはこちらをご覧ください。
〈Bookstore AID〉
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山陽堂書店
萬納 嶺
追伸
しばらく外国を旅行していたときのこと。
まちでサッカーをしている人たちを見つけては声をかけて混ぜてもらうことをよくしていた。
どこでしたサッカーも印象深く、人によってはその表情やプレーの特徴なんかも、未だ頭と身体に記憶されている。
ラオスのあるまちでのこと。
スタジアム近くを歩いていると、隣接する開けたコンクリートでサッカーをしている人たちがいた。
しばらく様子を見てみると、だいたい30人くらいの人たちが1チーム7、8人に分かれて試合をまわしているようだった。
混ぜてもらえないかと声をかけてみたが、その日はもうすぐおしまいとのことで「また来い」と帰された。
翌日か翌々日だったか、夕方頃同じ場所に向かうと、こないだの面々が集まっていた。
「いいよね?」と自分を指差して輪の中に入れてもらうと、「お前はこのチームだ」といわれ、同じチームだと思われる人たちと顔を見合わせた。
とりあえず試合ではないらしく、彼らにならってフィールドの外に座り、始まった試合を眺める。
みんな結構真剣で、お遊び要素はない様子。
ラオス人がサッカーをするのかすら知らなかったけれど、上手い人はどこにもいることを知る。
試合は時間制だったか何点先取だったか。
とにかく勝者がフィールドに残り、敗者はまた試合がまわってくるまで待つという、いわゆる「勝ち残り」ルールだった。
何試合かあって、「俺たちの番だ」
という手振りについてフィールドに立った。
フォーメーションも何もなく、硬いコンクリート、ゴールはコーンを並べた即席のもの(高さが曖昧なのでしばしば揉める)。
それでも「サッカーの試合が始まるのだ」という高揚感に、少しの緊張と大きな喜びを覚えた。
日が暮れ始めた頃、今日のサッカーはおしまいとなったようで、みんなが帰りはじめた。
僕らのチームは何連勝かして、通算で大きく勝ち越した。
勝利に貢献できたと思えるくらいにはそこそこできたという満足感と、何よりも久しぶりのサッカーが心から楽しかった。
彼らの背中を追うように帰ろうとすると、チームメイトだったひとりから「ちょっと待て」と呼び止められた。
紙幣を数えていた彼は「2ゴールだからこれもだ」と言って最後に数枚足して僕にお金を渡した。
「また○時にここな」そう言って、その日一番プレーで気の合った(と僕は思っている)やんちゃそうな彼は帰っていった。
試合にはお金が賭けられていて、しかも得点給まであったらしい。
手元の紙幣はいつもより少し贅沢な夕食になった。
あのときの試合のいくつかの場面。
自分のパスミスからカウンターをくらい失点してしまったこと、左足のトラップと同時に身体を反転させて相手をかわしたこと、
フィールドを少し沸かせた左足のボレーシュート。
その場面のことと、その場面を思い浮かべながら宿のレストランで満足気に夕飯を食べている自分のこと。
僕はこれからも時々それを思い出すのだと思う。
山陽堂書店ではメールマガジン配信しています。
配信をご希望される方は件名に「配信希望」と明記のうえ、
山陽堂書店メールマガジン【2020年5月7日配信】
連休中お店はお休みだったのですが、僕は5月5日に10分だけ仕事がありました。
TBSラジオ ACTION 毎週火曜日の「街の本屋さん応援プロジェクト」というコーナーで
当店を紹介してもらえることになり、電話で話をさせていただきました。
放送後1週間まで聴くことができますので、よろしければお聴きください。
恥ずかしいので僕は聴き直すことはございませんが、ごり男くんからは
「しっかりしたもんでしたよ」という、
まるで後輩からとは思えない言葉で評価をいただきました。
今日の追伸は僕のリハーサルに付き合わされたごり男くんの話です。
(※ごり男くんは大学時代の、というよりは生涯にわたり後輩であることを宣告された人物で、これまでも度々このメールマガジンに登場しています。)
放送のなかでは山陽堂書店の紹介のほか、4月30日に始まったBookstore AIDというプロジェクトについても話をさせていただきました。
このプロジェクトはいまこの状況のなかで、まちの書店・古書店をひとつでもなくさないことを目的に、
「ミニシアター・エイド基金」に倣った形でB&Bの内沼晋太郎さんや作家・書店員の花田菜々子さんら5人により立ち上げられました。
集められた支援金はより困窮度の高い書店に配当される仕組みになっています。
山陽堂書店も「図書券参加書店」として参加させていただいています。
(※書店の参加方法は「参加店」「図書券参加書店」「賛同」の3つがあります)
厳しい状況にあるのは書店だけではないことは承知のうえでのお願いになりますが、
まちに本屋があり続けられるよう、プロジェクトにご賛同いただけましたら、
ご協力のほどどうぞよろしくお願い致します。
Bookstore AIDについて詳しくはこちらをご覧ください。
さて、ラジオでは時間に限りがあって紹介できなかったのですが、
本当は紹介したかった本がもう1冊ありました。
『「考える人」は本を読む』河野通和(角川新書)800円+税です。
著者である河野さんは新潮社の雑誌「考える人」(※現在休刊・「webでも考える人」のみ継続)の編集長就任後、週に1度配信されるメールマガジンを引き継ぎました。
河野さんの"メルマガ"はその内容のおもしろさから、18,000人を超える登録者を抱えるほどの人気に。
本書ではそのなかの27回分を選び、25冊の本が紹介されています。
この本にはひとりでは知りえなかった本の世界の、その広がりを教えてもらいました。
紹介文は本の内容だけでなく、その周辺のことがらや、少しだけ河野さん自身のエピソードも交えて書かれていて、
それだけでも読み物としておもしろく、むしろそれだけで満足してしまいそうになるほどです。
紹介されている25冊はほぼすべて、僕がこれまで進んでは手に取ってこなかったようなジャンル・内容のものでしたが、
きっとみなさんも僕と同じように、読み終えた頃には紹介された本のいくつもを読みたくなっているはずです。
現在河野さんは糸井重里氏が主宰するほぼ日の"学校長"として活躍されていて、
メールマガジン「ほぼ日の学校長だより」を毎週配信しています。
毎回読み応えのある贅沢な内容(本の紹介や学校の授業の様子など)で、かなりおすすめです。
誰でも無料で簡単に登録できますので、是非毎週の楽しみのひとつに加えてください。
最新のものは本日配信され、今回そこで紹介されている本は下記の〈今週のおすすめ本〉にものせている「あの本は読まれているか」です。
河野さんからもご了承いただきましたのでURLを記載しておきます。
『本を読めなくなった人のための読書論』若松英輔(亜紀書房)1,200円+税
読書という行為をもっと気軽に捉えさせてくれる、そんな本です。
タイトルは読書論となっていますが、文字も大きく内容も難しいものではありません。
薦められた本(しかも自分から尋ねておいて)を読み始めたものの、
なかなか読み進められず、あるいは開くこともないまま、とりあえず置いた本。
目に入る度に静かにゆっくりと責められているような気持ちを覚えるようなことがありましたが、
本書にある「読めないときは読まなくて良い」など、肯定的な言葉の数々に救われました。
一旦置かれた彼らは怒っていたわけではなく、「罪と罰」も「悪童日記」も、
本を読むことからしばらく離れている方におすすめですが、
普段読まれている方にとっても読書という行為について新たな捉え方(楽しみ方)を教えてくれる本です。
◇「あの本は読まれているか」ラーラ・プレスコット(東京創元社)1800円+税
史実に基づき書かれた本書では、作家をめぐる東側の話と西側 CIA諜報員の女性の話が交互に展開されます。
文学の力で世界を変えるための武器とされた"一冊の小説"とそれを辿る人々の運命とは。
実在する"一冊の小説"は映画化もされていて、こちらもおすすめです。
本の装丁は山陽堂ブック倶楽部の主催メンバーのひとりでもあります
郵送販売についてのご案内はこちら、または添付のチラシをご覧ください。
今週も最後までお読みくださりありがとうございました。
「ごり男、いまから一気に喋ってみるから聴いてて。(中略)どう?」
本番前にもう一度ごり男に電話して一方的に喋り、練習はおしまい。
あれこれ考えてしまうと緊張してしまうので、とにかくはっきり話すことだけ意識しようと、
誰もいない山陽堂書店で「学園天国」を熱唱してから電話を待った。
「ラジコで聴いているんですけど、こっちのまんのさんはまだ喋ってます」
「まんのさんは終わりましたって、なんか違う言い方ないの?まぁいいや、どうだった?」
「いや、まぁ、そうですね、しっかりしたもんでしたよ」
もしうまくやれていたのであれば、ごり男にお礼を言わねばならない。